泡を巡る(大きな服)
木立 悟





小さなほころび
どこへゆくのか
頬ふくらませ
どこへゆくのか


果実の耳を
匂わせすぎて
帰るころには
涙あふれて


雨の朝ふいに
何をしているの と問われ
振り向くと傘は
どこかへいってしまっていた


よくあること
横顔が刻まれた光も
少なめの飲み水も
いつものこと


眠る猫の手と足を
見えない蜘蛛が登ってゆく
水銀に似た不在の波
ぬらぬらと繰り返すざわめきと寝がえり


いつまでも眠れない夢を見る
長い廊下の隅で
どうでもいい荷物を片付けつづけている
通るもののない 明るい路


花のむこうから
花を見ている
冬に倒れる冬
白のなかの
虚ろを見ている


菓子をもらえぬと知り
去るもの 去らぬもの
雨をくぐる虹 映し身の午後
水たまりに沈む 晩夏の服


水の諸相は
どれもあいまいに明言し
門の終わりまで門番で居る
泡の内壁を巡る音
不満気な頬を撫でてゆく



























自由詩 泡を巡る(大きな服) Copyright 木立 悟 2013-10-11 15:32:34
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