風の子の弔う
凛々椿
父ちゃん
あんお地蔵様な毎日こっちば見よるとよ
戦火でむごう焦げた左っかわ
今日もハンサムよ
父ちゃんに似てよか男ばい
いたばり出てみれば秋ん風のすーっとすると
こん前どか雪降ったつ思うとったんにもう夏の過ぎようとしようとよ
時ん経つの早かねえ
早かね
あんときのお葬式 あらあどっから来よったとね
孫が黒か猫ばつかまえてきよってこんいたばりで見せぶらかしよったき
そらとんだ騒ぎやったとよ
みなして不吉や不吉やこきよってからに
ばってんあれは小んか子んしたこっちゃろうも
父ちゃんなら目ば細めたに違いなか
あれは風の子の
弔いよ
ひゅるるひゅるるう ひゅ
ひゅるん て
あげん小んか孫やったとが 今年でもう二十になったとよ
来月から東京さ住むて
べにでめかしようて もう立派な大人ばい
うちの腰もひん曲がるわけよ
もう野菜もよう作らんちゃ
なさけなかね
なあ父ちゃん
うちなもうずうっとカレーば食べてなかよ
もうずうっとよ
父ちゃんの作るカレーはほんなごつうまかった
うちん庭で採れたトマトとたまねぎに
娘婿んこしらえた煮干しばしゃげて息子の採ってきたきのこばくつくつ煮て
あげんうまかもん もうこん世にはなか
どうせなら十五年がとこさえてのうなってくれたらよかったとにねえ
そうこいたら娘にも孫にも笑われよったばい
そげなこつ無理よ
て
こぎゃんひかり
こぎゃん風の
指になんもかからん空の
さよなら言うて息の乗せきらんと
ひゅるるひゅうる
あん時の父ちゃんのなきよる声のごたあ
ああ
ポチのまーたごはんーごはんてやって来ようとよ
正午前5分にいっつも来んしゃる
しょんないなあ
よか野良やけんしょんないわ
肉じゃがの残りばってんよかかいね
近頃ん若いもんは 人でも犬でも鳩でも猫でも舌がよく肥えとうと
孫はハンバーグ
ポチはかしわ
鳩は伊東屋さんがたのコメ 猫は菅野さんがたのサバ
うちは父ちゃんのカレーばい
今日のごはんはトマトカレーにしようよ
孫のそう言うて 駅前さいトマトば買い出かけとるとよ
もうぼちぼち帰ってくっちゃろ
夕飯作っちくれるげなけん
そしたら 父ちゃんも一緒に食べようえ
たまにはよかろうもん
きっとうまかばい
風の子もほめよったよ
父ちゃんのカレーおいしかったって
指になんもかからん空に
ひゅるるひゅるん 風の鳴きよる