心を置いてきた。
瑠依


「悪いとは思うが、預かってはくれないか。」


故郷の母に。
同窓の友に。
馴染みのあの人に。
寂しそうに笑う君に。

いつか引き取りに行くから。
押入れの奥でも良いから。
部屋の片隅に置かせてもらえるだけで良いから。

埃が積もっていたならたまにはハタキをかけてくれ。
そこにあることを年に一回くらいは思い出してくれ。

「謙虚だろう。」

自分で言う奴があるか、そう言って笑っただろう。
ちっとも謙虚じゃない、なんて眉を潜めただろう。
それでも、受取拒否はされなかったものだ。
やさしい人たちだ。

「理由?」

これから行かなければならない場所がある。
心を持っては行けないところだ。
無にならねば辿り着けない場所だ。

「寂しくはない。」

必ずまた戻ってくるから。
すべてにケリがついたなら。

どうか、それまで。

「心を、どうぞ宜しく。」


自由詩 心を置いてきた。 Copyright 瑠依 2013-09-30 00:23:30
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