十三月記
嘉野千尋
冬の木漏れ日の中で懐かしい歌を聴きました
懐かしくてももう泣けない自分がいました
それが寂しくてそっと瞳を閉じました
太陽が淡く輝いた冬の日のことです
太陽が遠いから暖かさを感じないのでしょうか
住所不明の手紙が一通帰り着いて嘆息しました
午後になっても雨は雪に変わりませんでした
それでも寒かった日のことです
今でも愛しているという囁きが聴こえるあなたの手袋を
炬燵の中で猫が枕にしているのを見つけました
もう片方は探しても見つかりませんでした
一日中雪が降った日のことです
読みかけの本の栞は旅に出たようでした
どこから物語を始めればよいのか分からずじまいで
散歩に出ようとしても地図は白いままでした
代わりに足跡を一つ見つけました
あなたが訪ねて来た日のことです
十三月が過ぎてゆきます
舞い散る雪の中で
わたしの十三月が過ぎてゆきます