十三月記
嘉野千尋



  冬の木漏れ日の中で懐かしい歌を聴きました
  懐かしくてももう泣けない自分がいました
  それが寂しくてそっと瞳を閉じました
  太陽が淡く輝いた冬の日のことです


  太陽が遠いから暖かさを感じないのでしょうか
  住所不明の手紙が一通帰り着いて嘆息しました
  午後になっても雨は雪に変わりませんでした
  それでも寒かった日のことです 
  
  
  今でも愛しているという囁きが聴こえるあなたの手袋を
  炬燵の中で猫が枕にしているのを見つけました
  もう片方は探しても見つかりませんでした
  一日中雪が降った日のことです


  読みかけの本の栞は旅に出たようでした
  どこから物語を始めればよいのか分からずじまいで
  散歩に出ようとしても地図は白いままでした
  代わりに足跡を一つ見つけました
  あなたが訪ねて来た日のことです
 
 
  十三月が過ぎてゆきます
  舞い散る雪の中で
  わたしの十三月が過ぎてゆきます






自由詩 十三月記 Copyright 嘉野千尋 2005-01-07 19:00:03
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