言葉の人形たち
まーつん



言葉って、抱きしめられない
口づけたり、切りつけたりできない

だけど、君に会いたい

針先ほどの穴に
空が吸い込まれていく
風も太陽も巻き込んで

言葉って、食べられない
凍らせたり、燃やすこともできない

だけど、君に触れたい

夜が湧き上がる
崩れかけた
積み木の街の足元から
湧き水のように
壁の隙間を満たしていく

立ち尽くす君は 押し寄せる夜に
背後から 飲み込まれる
その眼を 僕に向けたまま

一日の終わりには
物語の始まりがある

陽の当たらない
寸劇の一幕が

古いノートに
君を書く
窓から流れ込む
街灯の明かりを頼りに

頬杖を突いて
記憶を手繰り寄せ
千の言葉を編み上げて
涙ぐましい努力の果てに

君は
紙から立ち上がる
平面から立体へ

君の全ての細胞は
文字に置き換えられ
声も立てずに囁いてる

それは
一人の哀れな男が
文字の連なりで再現した
手の届かない高嶺の花

言葉の人形
という訳さ

恋い焦がれる女に
声一つ掛けられない

この意気地なしは
しかし発明家でもあり

今夜 僕は
第二の君を創造した

ちびた鉛筆と
紙の切れ端を使って

気持ちが悪い?
虫唾が走る?

構いはしないさ
どうせ 君が 僕へ 
愛を与えることは
出来はしないのだから


さて、次に
僕は 自分の存在を
言葉に 置き換えていく

物語という
広大な空間を持つ
平面世界に転生した
第二の君に 会うために
第二の自分に 乗り移って

喋りすぎる君の欠点は
消しゴムで擦り落とし
冷やかな目つきは
優しい眼差しに書きかえ

サクランボのような微笑みは
愛らしい形容詞で誇張して

僕もまた
スラリとした身体と
高い背丈に支えられた
美しい別人に生まれ変わり

決して
冷たい風の吹かない
常春の世界を見下ろす
月の明かりに祝福されながら

今夜 僕は君を汚す
そして 我が物にする
虚しい 見せかけの愛を

それは
罪のない罪
足のつかない盗みだ
君は自分が穢されていくのに
気付くことすら無いだろう

その衣を引き裂き
その身体を包み込み
その瞳を覗き込むとき

僕は何を見るだろう 
深い虚無に見つめ返され
甲高い悲鳴を ロケットのように
打ち上げたとしても

その声が
本物の君へ
届くことはない

僕らを隔てる
夜の通りの
向こう側へ

高い 高い
現実の壁の
向こう側へ…



自由詩 言葉の人形たち Copyright まーつん 2013-09-22 12:10:02
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