永遠の家
塩崎みあき
そばに
楡の木が一本立っている
家
土間があって
黒く艶めく
作り付けの引き戸には
朱塗りの器が
たくさん入っている
座敷は
全てが静寂
隅には
黒く溜まった空気
磨き上げられた
玄関の床は
静かにすまして
黒く深く
まひるの
陽を
吸収している
一歩
中へ入る人間は
すべてが
黒く染め上げられる
明るみの中で
にこやかだった
表情は
一瞬
消えて
家
へと
吸収されてゆく
宇宙に
放り出された
気持ちになる
漂流者
通信も途絶え
時間も消え
視界も閉ざされ
永遠だけが
そこに
のたりと
横たわり
人としての
形は
いつしか崩れ
人格は溶かされ
液体の様に
変容自在になる
永遠の
安寧
永遠の
平穏
遠くで
何かの信号が送られ
ある日
家は崩壊する
安寧は断たれ
平穏は砕かれ
永遠は放棄された
強く生きなければならない
(この口が囁く)
家から
救済してきた
3本の
メチルアルコールの瓶
が
蛍光灯の光をあびて
死んだ魚の目のように
白く濁っている
それでも
それがあたかも
使命
であるかのように
強く生きなければならない
強く
生きなければならない
死に向かって