企業戦士
佑木

毎朝 電車に乗って仕事に行く
ある朝 いつものように電車に乗り込み周りを
見てみると(私は常に立っている)

座席の一番端にひとりの精悍な顔つきの企業戦士といった
雰囲気の中年が座っていて

「営業職だろうか それとも管理職だろうか」などと
ふと思ったりする

その時は
それ以上何の感慨もなく 外の景色を見ていた

しばらくすると 次の駅に停車し
母親に抱かれた2歳前後の幼児が入って来た

幼児が母親に甘える言葉が
車内に いつもとは違った
何とも言えない家族の平和なひとときの雰囲気を醸すのを

朝の日差しを受けながら自分は感じていた

企業戦士の方角を見たとき
その顔が 全く別人に変わっているのに気がついた

人の顔とは不思議なものだ
心の変化が顔の表情をすっかり変えてしまう

精悍な顔つきの企業戦士といった雰囲気が漂っていた中年が
何とも言えない柔和なやさしい中年の紳士に変わっていた

重い鎧を身にまとった企業戦士の心の奥には
家族や両親を守るために戦い続けてきた心優しきひとりの男が
いるのだろう

ひとりの幼児が ひとりの企業戦士の
顔の表情をすっかり変えてしまった

「そうか 心優しき企業戦士なんだ」

なんだか嬉しくなってくる
さわやかな気持ちになりながら

「日本もまだまだ捨てたもんじゃない」

朝の日差しを受けながら心で呟いて

いつもの駅をいつものように降りてゆく


自由詩 企業戦士 Copyright 佑木 2013-09-08 14:45:04
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