観念はあっという間に古びては消えてゆくものだ
ホロウ・シカエルボク





真っ逆さまに上昇する夢で果てた転寝は
鼠色の夜更けを窓のそばに連れてきた
手のひらが釘を打ちつけられたように痛むので
ゴルゴダの丘に呪詛を吹きかけた
尖がった唇には幼い頃に別れた友達の死体がぶら下がっていて
それはパラボラアンテナのように横に拓かれていた
世界中のマイナスがそこに流れ込んでくる
なにもそこまでというくらいに刺されて死んだ若い女の泣声や
痴呆の果てまで行って死んだ老人の行先の無い足音
いつのものか判らない頭蓋骨の楕円的な転がり
果てしの無い死が荒れ果てた土地を思わせるのは何故だろう
亡霊たちはふわりと適当に浮き上がり
俺がその成り立ちを認識していることに気付いてにんまりとする
繁華街の人混みの中で知った顔を見つけたみたいに
ドローイングな視線の彷徨い
グレーチングの下の薄闇までもう動かない時間が繋がっている
鼠色の夜は物言わぬやつらの宴だ
寄り集まって項垂れて分け合って舐め合って
ナムダイシヘンジョーコンゴーナムダイシヘンジョーコンゴー
そう真っ逆さまに上昇する夢を見ていたんだずっと
空の終わりの穴ぼこを抜けると地底もいいとこだった
臭いの無い時間だからきっとなにも生きていない
まるでそれぞれが妙に重い塵のように降り積もる
ネヲンライトをすり抜けて影なんかどっかに忘れたまんま
床に倒れていたのは何時間ぐらい前のことだっただろう
少しも腹など減っていないのに当たり構わず詰め込んで
動けなくなって諦めているうちに眠ってしまったんだ
サラサラとした粉の味がするからきっと
最後に食べたのは菓子パンのような食いものだったのだろう
起動に失敗したパソコンの曖昧に黒いままのディスプレイみたいに
浅い眠りに襟足を引っ張られたままぼんやりと目を開けている
そんな原因がこんな景色を呼び寄せているのだろうか
鼠色の夜は物言わぬやつらの宴
水槽の結合部の僅かな欠陥から少しずつ漏れる水みたいに
ただただ辱めるためだけの平手打ちのような時間が過ぎていく
生きていることが判っていたっていつでも鼓動を聴いているわけじゃない
呆然としていればそれはだいたい同じことさ
台所のメモには簡単なレシピが書いてあるが
この部屋の壁には詳細な喪失の記録と再生の仕方が書いてある
それは暗示のように知らず知らず従わせてしまう
真夜中の真っ黒い快晴の中へ落ちていく
目玉の中で何かが高速で回転している
ぽっかりと空いた穴を縫い合わせたってどんな好転もあり得ない
延髄から細い管で意識を吸い上げられるように睡魔に取り憑かれてるだけさ
なにか規則的なことをしてる時以外は時計表示になんか何の意味もないし
どれだけ眠ったのか
どんなふうに眠ったのか
どうして眠っていたのか
それが何度繰り返されたら終焉が訪れるのか
とかくはっきりと決められていることほど疑い深いものなのだ
その日持っていたものの大半が寄り分けられて要らなくなってしまった
だからそれの代わりになるようなものをどこかで探しているのだろう
真夜中がおかしくなったのは音のしない時計に変えてからのような気がする
秒針がきちんと一秒ごとに叩いていた時代にはこんなことなかった
すでに忘れられた当り前のこと
そいつはなんて示唆に満ちたタイミングであったことだろうか
殺す必要なんかなくったって必要としないのなら同じようなものだ
喜劇か悲劇にしかなりえない代物だ
だから闇雲に捨てないようにあれこれと気を使いながら
うねりは繰り返された、そこからどうなりたかったのか、どんなことを考えていたのかまるで思い出せない
ぶら下がった友達の死体をたくさんテーブルに眺めた
どこを向いても目が合ってしまうのでいささか閉口している






自由詩 観念はあっという間に古びては消えてゆくものだ Copyright ホロウ・シカエルボク 2013-09-04 23:40:06
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