立ち上がる波
まーつん

絶海の孤島に漂着して
今日で何日目?

生れ落ちた時から
君は遭難者だった

街を歩けば
行きかう人の
顔、顔、顔

彼等は所詮 幻
手の届かない 幻

握りしめた
砂の感触だけが
真実だった

波打ち際には
打ち寄せられた
ゴミ屑たち
死体みたいに
ゴロゴロしていて

ペットボトル
スチロール
腐った魚
流木

彼らと 君とは
似た者同士

行き場も 目的もなく
潮の流れに 乗せられて
挙句辿り着いた 掃き溜めに
身を寄せ合う 同類たち

日が沈めば
手の届かない高みから
星屑達が 嗾ける

見せかけの 希望の輝き
毎晩の様に煌めかせ

波を枕に 眠るには
静かすぎる夜

君はふらふらと
重い腰を上げる

目の前に 広がるのは
満月が照らす 凪の海

静まり返った
波打ち際に立ち
ぼろぼろになった
帆の切れ端を
両手に掴み上げ
頭上に掲げる

頬を撫でる
かすかな風に
力なくはためく
古い布きれを

ばさり、ばさり
と 頭の上で
振り回す

夜の水平線に向けて

すると
死んだ様に
安らいでいた
足元の水が
ざわめく

眠りから
覚めたように
盛り上がり

透明に
立ち上がる

その
冷たい胎に
蒼い光を
宿して

孤独の中で
君がどれだけ
色褪せても
世界は変わらず
美しい


傷つけたく
なるくらいに


だから君は
今夜も波を
送り出す

あの暗い
水平線へ

誰かが
いるはずの



彼方へと




自由詩 立ち上がる波 Copyright まーつん 2013-08-20 11:58:44
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