箱庭にて 雪氷積りて 草花艶やかに
黒ヱ

鮮やかに降り積もる 霰は霞み 日より煌めく
知らぬ記憶にあり それでも待ち続けるもの 春風
あまりにも温かく 色鮮やかで

「妬ましき」

柔らの殻に在りて震え 
風に誘われ
離すものが また攫むものに
託し託され その想いの拠り所も知らず
それが互いの為と

寒さに拱いて 氷に委ねる 身は剥離する
その景色より思う 先を見据えては

「昇るものよ! また 沈むものよ!」
「待てど! これが現実だ!」

そう思いて 凍て眠る

現実は いつも決まっている
変わらない
変われない

望まれるままに 生 植付けられ
芽吹き 誘われる 紫苑の輪廻
廻す過敏な歌を吹きて 雪煙り
深く鋭く 凍てつかせ

「冷たく 固く 凍るがいい!」

「ああ! あなたよ! 光をくれ!」

幾度と浮上する 彷徨う思念
沁みいる 冷たさに靡く(なびく)

手を取り合い 共に歩み
明日とを繋ぐ輪をくぐると 約束し合ったのに

それでも あまりに 高く 温かく
煌めき そして凍てつかせる 天に叫ぶ

「一夜の長きの切なさよ!」

当たり前に 応えはない

枯れ行くのか その前に萌えぬのか
それすらも無いのか

「もう 分かっているのだろう」
「もう 気が付いているのだろう」

そうだ
ここに光はいない
永遠にだ


幻が語りかけてくる
「まさか! 信じていたか!」
己の存在を事細かに話している

「なんと馬鹿馬鹿しいことだ」

再びの幻
「お前は知っている! 気付いている!」
喚き止まぬ老婆
「愚か者め」

それらは口々に呟いている
孤独を刻々と呟いている
二つに見える影に 盛大に嘆いている

幻と老婆
「ひとりで」
 生きていけ
「たったひとりで」
 生きていくのだ
「そしてひとりで果てるのがよい」


不貞腐れ 箱に投げ入り
声を流し
そしてまた 土に眠る

それみたことか

またか
幾度目の繰り返しだろう
また始め また詰めたところで

正しさは在らず
過ちは在れり
それが
私とそれら総ての世界

 苦しい
「それなら 苦しくはない」
 許せない
「それなら 許してしまおう」
 知りたい
「それなら 隠してしまおう」
 助けてほしい
「それなら 居なくなろう」

ここは寒い
ここは熱い

腐る 枯れる
孤独に

 苦しい
「苦しいね」
 許せない
「許せないのかな」
 知りたい
「教えてあげる」
 助けてほしい
「助けてあげるよ」

 愛して欲しい
「愛しているよ」

曰く 一人では無いということ


忘れた頃
ふと見下ろすと 花が咲いてしまっていて
その花弁の一枚一枚が
全てを奪い去って行ってしまう 光を放っている
「おそろしいことだ
 これは 大変に 本当に おそろしいことだ」

形を留めていない獣の骸たち
「我こそが! 我こそが!」
息をもさせぬ真っ黒の臭気の中で劈く
とても早口で

嘆きながら蔑み 塗り潰そうとする
辿り着けぬ それでも進み行く 紺碧の輪廻
過ぎし日をつらつら 語り出しては
また燻り 姦しく鳴り

そこにあるものは 同じ
だが 女には 同じに映らない

時の波に揺らされ 攫われ

時間だけを貪り
全てを理解したと吹聴した後

「わたしが 正しい」

堂々巡り
また 同じ事の繰り返し

「ひとりで泳ぐ」
渚に花束を
本当は
祝福される事なのに

ある夢
「いつも一緒 わたしだけだもなぁ
 変わらず わたしにつくしてくれたもなぁ」

彷徨う愛らしい子 終に辿り着く
信じるもの 愛するもの
永遠の縁とするべくとして

枯れるもの
それに続き
また 枯れるもの

枯れゆくものばかりのこの世界で
塵も積もり 山と成り 海となる
そこから 何の意味を見出すか

ここにはもう 何もない

羽振り喚く 掴んで恐れる子を投げようとする
篠突く雨を深海と見紛う

始まりがあり そして 終わりがある
それだけ
「故に 光差す道理など無く」

そうだ
共に流れていた
「見ろ」
流星のよう 
止め処なく咲き続ける
日向に咲く花の美しさよ

過ぎゆく先を知らず
純粋は愚かと曰く 誰かよ

曰く
「遠い昔 子守唄として 
 何か可愛らしい子に歌ってあげた歌があって
 可愛らしい 迷い子の歌なのだけれど
 どうにも こうにも
 誰に歌ってあげたのか どうしても思い出せなくて
 今は自分で 自分のために歌っている」

その女は坂様になりながら嗚咽している
必死に思惑に似た泥人形を練り上げている

種を飛ばし 共に風に乗せ
その先を心から願った

「思い出
 もう今は思い出
 昔の思い出
 大切な思い出」


―終わりの先―

葉が焼かれている
これは熱い
間もなく 枯れ行き消えてしまうのだろう

「どうしようもない」

空は燃えている
天心から遠くまで どこまでも赤い

「どうしようもない」

わたしには どうしようもない
どうする事も出来ない
そう呟いて 独りで泣いている

「ここは地獄か」
「ここは天国だ」
「そうだ ここは天国だ」
「そうだ ここは地獄だ」

それでも

冷たい雨の降り続く地に 種は落ち
その先に虹は在り 花が咲く

それだから

「今日も明日も明後日も
 来週も来月も来年も
 十年先も」

「そして 尽きた その後も」

繰り返して また繰り返す
止まることもなく


ひとはきっと
願いの先に 花を咲かせることが出来る
鮮やかに


自由詩 箱庭にて 雪氷積りて 草花艶やかに Copyright 黒ヱ 2013-08-16 00:11:36
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