The Wind Began To Howl
壮佑


白いコーヒーカップが
モジモジしている様子なので
どこか痒いのかと思い
指先でひとしきり掻いてやった
すると紫色の煙が立ち昇り
ケータイの着信音みたいな
安っぽいファンファーレと共に
ジミヘン魔神が姿を現わした
願いごとを叶えてくれるらしい
だったらさえないファンファーレを
あのウッドストックで演奏した
『スター・スパングルド・バナー』に
変えてもらえないか頼んでみよう
すると前のテーブルの町内会長が
「ジミヘンなら『紫のけむり』だぞ」
それが当然のような口調で言う
隣りのテーブルのセールスマンは
「『ブードゥー・チャイルド』の方が
タイトルが魔術っぽくていいな」と言う
「そういうことなら『スパニッシュ・
キャッスル・マジック』もありますわ」
と奥のテーブルの人妻けえ子
「私は『リトル・ウィング』がいいわ。
フィギュア・スケートの音楽にも
こないだ使われてたじゃない?」
これはレジを打つウェイトレス
「『リトル・ウィング』のイントロは
おとなし過ぎると思うけどなあ」
パンを焼きながら疑問を呈する店長
「じゃあデレク&ドミノスがカバーした
『リトル・ウィング』のイントロなら、
けっこう華々しい感じだし、いいかも」
私が小倉パンをパクつきながら言うと
「ああ、エリック・クラプトンね!
ジミヘンよりずっとハンサムだわぁ……」
うっとり顔のウェイトレスとけえ子
この発言が決定的にまずかった
すっかりつむじを曲げたジミヘン魔神は
ケータイの着信音みたいな音と共に
瞬く間に消え失せてしまった
私がいくらコーヒーカップを掻いても
二度と現れることはなかった
こりゃあマズったわいと一同
ルックス関係はタブーだったのか
でもジミヘン格好いいけどなぁ
ライバル意識の問題ですわ
みんなで万感胸に迫っていたら
カップの中で風が吠え始めた
『ウォッチタワー』の最後の歌詞だ
The Wind Began To Howl !

(ギターソロでフェイドアウト)



※「ウォッチタワー」=正しくは「All Along The Watchtower」(ボブ・ディランの曲のカバー)
http://www.youtube.com/watch?v=pJV81mdj1ic





自由詩 The Wind Began To Howl Copyright 壮佑 2013-08-11 20:46:41
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