いつかの夏の日記 みたいなものあれこれ
佐東

(夢をみて 過ごす)
(夢だけをみて 過ごそうとおもった)


7月10日

よしくんが 蝉の抜け殻の中に
ねり消しを詰めて
ブロック塀の上に置いていた
きっと
中身がある
て おもわせたかったんだろう

ばかだとおもった





7月16日

アーバンハイツ村上の 白く日焼けした壁に
大きな花の影が揺れていた
それは ハイビスカスと言うのだと
平良さんが教えてくれた
平良さんちは ここに この春 沖縄から越してきたばかりで ゆまちゃんという女の子が 隣のクラスに編入してきた
ゆまちゃんは 色黒で手足が長くてショートカットで 大きな目が離れてて 鼻が少し大き目で
よしくんたちは 鬼がわらー て
からかってたんだけど
体育のときの水泳の学年記録を
長い手足を優雅に使う しなやかなクロールで あっという間に書き換えてしまって以来 あまりからかわなくなってしまった
ゆまちゃんが水から上がり つかれたーとか言って大きな伸びをした姿は タンチョウ鶴に見えた
プールサイドで三角形に座り ぽかんとした夏空を ぽかんと見上げてる姿は 鬼がわらー じゃなくて
ゆまちゃんはシーサーに似ているとおもってしまった





7月24日

よしくんたちがラジオ体操の時に
オリジナルパフォーマンスだ!と言って
へんてこな踊りを踊っていた
ハンコは貰えなかったみたいだった

ばかだとおもった





8月2日

夜 スイカの種を出さずに食べていたら
お父さんに
腹の中で芽が出るぞ て脅された
そんなわけないやん!てそのまま寝て翌朝 わたしはスイカ畑に横たわっていた
手足がスイカの蔓になってて
頭の部分が丸々とした大きなスイカになっていた
お父さんが目隠しをして棒を持って畑にやってきた
声だけのお母さんが
右!  そのまま真っ直ぐ ちょい右 そう!そのまま とか言ってわたしの頭の処まで誘導した
そう そこで叩く!

ぱかーーん

わたしの頭はお父さんの手によって スイカなのにザクロのようにされてしまった
というところで目が覚めた
いやな夢だった
起きると お父さんはまだ寝ていたから 寝ているお父さんの
足もとの扇風機のスイッチを切ってあげた
ささやかな仕返しだ





8月7日

お兄ちゃんと 本当にあった怖い話と言うのをテレビで観た
観終わった後 お兄ちゃんが
一緒に寝てあげても良いぞ て少し真剣な顔で言ってきたんだけど 丁寧にお断りした
ふふ 本当は自分が怖いからなんだよね あんな程度で怖がるなんて まだまだ子供やん わたし?夜ひとりでトイレに行けなくなりましたが それがなにか?





8月10日

町内盆踊りの屋台でよしくんたちが
ラムネを買っていた
なかなか栓を開けられなくて
むきーー!となっていた
見かねてわたしが 玉押しからリングを外して しゅぽんと開けてあげた
よしくんから すげー!お前天才!て言われたけどよしくん、、、、それ あんたがばかなだけだとおもうよ





8月15日

夢をみた
その日は朝から 大量の蝉が降っていた
雲ひとつない 夏空から
ぼとぼとと音をたてながら
大量の蝉が降っている

まだ少し息のある蝉は
細い脚をひくひくさせながら
ぢぢ ぢ と弱々しく鳴いてはいるが
ほどなく 事切れる

わたしは 胸をしめつけられるような 物悲しいような 蝉たちに
目を瞑り 手を合わす
すると
足もとの 地面いっぱいに
うず高く積まれた蝉の死がい一つ一つから
か細い 植物の蔓のようなものが
しゅるしゅると伸びてきて
空に向かう

それは 半透明で
強い夏の日差しを きらきらと反射させて
幾千もの光の筋が 真っ直ぐ
空に向かって伸びてゆくようで

やがて
蔓のさきから 真っ白い
ちいさな折り鶴が
次々と 咲いてゆく

強い風が さあーーと吹くと
折り鶴たちは 一斉に
羽ばたいてゆく
幾千もの折り鶴たちが
大きな白い帯となって 空を舞う

一本の大きな 白い大河のように
深く切れ込んでゆく夏の空を
どこまでも どこまでも どこまでも

不思議な夢だった
夕べ家族で 映像の二十世紀というDVDを観てたんだけど
それが関係しているのかどうかは
わからない





8月23日

お父さんが 少し遅れた夏休みを取ってくれたので
家族で海へゆく

もう人の数よりクラゲの数のほうが多いぞ
とお父さんが運転しながら言うんだけど
贅沢は言ってられない

遠浅の海水浴場
今までの海のぶんまで取り戻すぞー!
とお兄ちゃんが わけの分からない事を叫びながら
クラゲを避けながら ぎこちない海水魚になってゆく

俺 黙ってたけど 素潜りがとくいなんだ とどうでもいい告白に
適当に相槌を打ちながら かき氷を食べる
じゃあ真珠とってきて真珠 と冷たく言い放つと
まかせろ!とか言いながら
再び海へと戻る

しばらくすると 真珠なかったけど代わりに変なモンとってきた
と言って 短い鎖の付いたお風呂の栓みたいなものを手のひらに乗っけて見せてくれた
すると
海の水が凄い速さで引いてゆき
遠浅の背中が みるみると露わにされてゆく
やべ!海の栓ぬいちゃった!
お兄ちゃんが栓を沖に向かって投げる
ゆっくりと放物線を描きながら
遠浅に消えてゆく海の栓
背中の方で 夏の終わる足音が
聞こえてくるような 気がした





8月30日

扇風機に向かって
喉の下の辺りを水平に
チョップしながら
シ ュ ク ダ イ 卜 ハ ナ ニ カ? ワ レ ワ レ ハ シ ラ ナ イ
と宿題の無い惑星から飛来してきた宇宙生命体を風呂上がりに演じていたら
お母さんに 後ろから頭をはたかれた
頭にきたので Tシャツの首の部分を頭に引っ掛けて
ジャミラだぞぅ!と応えた
まるっとスルーされた

まだ陽の残る 夕闇のベランダ
夏の終わりの星が 静かに瞬いている
秋の訪れを告げる虫たちの声が
風にのって漂ってくる

あの辺かしら?
夕闇のベランダより 遙か西方の空を見上げ
ちいさなジャミラが
惑星帰還計画を立ち上げる





8月31日

ずっとゆめをみたままですごしていたかった



 







自由詩 いつかの夏の日記 みたいなものあれこれ Copyright 佐東 2013-08-10 16:16:02
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