山辺の道にて
マチネ

山女の実を一つもいで、隣に立つあなたにあげる
眩暈の先で揺らぐあなたに

輪郭の消えた右手の形が
たしかに山女をのせている

はりつめた耳鳴りの向こうで、あなたが何かつぶやいている

いましがた消えた雉の居場所を、すぐあなたに教えてあげる
藪の奥に目を凝らすあなたに

鉄塔のように伸ばされた背中が
ゆるやかに
ぐわりと
たわんでいく

はばかるように、くぐもった声であなたは言う

「なにも、いやしない」

独り言のようなその声の、その隣に
誰か、
私がいるということを
あなたは知るまい

藪の奥にいる目よ
その声よ


自由詩 山辺の道にて Copyright マチネ 2013-08-10 00:13:37
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