涼をとる
佐東

駅前に
アーケードの架かった商店街がある
八割方の店舗はシャッターが下りた状態のまま
今やその役目を
郊外型の大きな店舗に奪われてしまった

下野薬局の前の
排気ガスで煤けてしまっているサトちゃんは
焦点の合わないうつろな瞳で
空車のタクシーを
ただぼんやりと眺めている
ボンネットに反射する
ギラギラした夏のひかりは
今まさに夏本番を迎えようとしてる合図のようだ
傍らで ひっそりと
その生涯を閉じようとしている
夏なのに冬の枯野のような商店街の一画に
かつての賑わいを
取り戻したかのようなお店がオープンしたのは
この夏に入ってのことだった

ランチタイムには
まさに黒山の人だかりで
順番待ちの列もできるほどだ
近くのOL スーツ姿の営業マン 作業服のお兄さん タクシーの運転手 市大の学生さん

小さい頃
年末のお買い物には必ず
この商店街に家族で来ていた
その時のことを髣髴とさせる
その列に
一度だけ加わったことがある

あまり広くない店内
扉を開けると さあーーと
とても良質な涼風が
火照った身体を やさしく撫でてゆく

ふと見ると
ちいさな涼が
カウンターの上の
ちいさな赤い お座布団に
ちょこんと正座していて
真っ赤な顔をして
口を真一文字に結んでいる
その姿が
あまりにも いじらしくて
お会計の時に
ずっと正座してて 足しびれない?
て 話しかけた
すると
へーきだぞ
と 威張ったように言う
さらに
外は もう真夏だよ
と 教えてあげると
ここから動いちゃいけないんだぞ!
て 語気を荒げて答える

わたしは
あたたかな笑いを堪え切れず
店の扉を開けて外に出る
くすんだアーケードの向こうの空は
確かに
鮮やかすぎる 青だ
いきものの熱量をたっぷり含んだ
鮮やかな空だ!

わたしは おもう
真っ赤な顔をして しびれを堪える
健気な涼のいる限り
この店は夏中
繁盛するのだと








自由詩 涼をとる Copyright 佐東 2013-08-08 09:57:06
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