平和の地層
中村 くらげ

私が立っているビル群の下
そこには昔深い海があった
不燃の塊に埋め立てられ
魚は住処を失って
そうして海は死んでいった

濁った灰色の海を眺めても
波音は聞こえては来ない


私が歩いている石畳の下
そこには昔大きな穴があった
焼け爛れた皮膚を蝕んで
虫は益々肥えてゆき
そうして人は死んでいった

平和の像は何も語らずに
一体何を見つめているのだろう


今私は屋根の下で寝転んで
そこにあるテレビの電源をつけた
観るでもなく聞くでもなく
ただ電気を消費していく
そうして私は生きていた

その画面に流れ続ける映像は
原発がどうとか言っていたような


私が生きている地球という星
そこには幾重にも重なった土がある
数多の生物や廃棄物や毒さえも混ざり合い
美しい歴史を刻んでいる
平和の地層は今も積もり続け
私たちの悲痛で愚かな記憶を塗り替えてしまうようだ

だから私は
今日の表層に足跡をひとつ残して
振り返りながらも真っ直ぐに歩こうとする
ただひたすら真っ直ぐに


自由詩 平和の地層 Copyright 中村 くらげ 2013-08-07 22:33:09
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