一服まで
ヒヤシンス


澱んだ川面に石を投げる。
幾度も、幾度も。
投げられた石は水を跳ね返す事も無く、
澱んだ川面にねっとりと吸い込まれてゆく。
 
石は私自身の言葉であるかのように音も立てず沈んでゆく。
一体いくつもの言葉が飲み込まれていっただろう。
私はただぼんやりと石を投げ続けている。
いつしか蛙の鳴き声が辺り一面を覆い尽くしていた。

私はただ沈んでゆくだけの情景に嫌気がさして、
腹立ちまぎれに一つ大きめの石を川面に思い切り投げつけた。
びちゃっという音と共に重たく汚い水が私の服を通り越して私の心に跳ね返ってきた。
それは侮辱であり、差別であり、無慈悲であり、孤独だった。

私は蛙たちの見えない視線を気にした。全ての音は消え、無になり、あらゆる視線が私に注がれた。それは先ほど跳ね返ってきた何よりも私にとっては大いなる恐怖だった。
無の中の視線。無表情。無感情。
私はパニックに陥った。胸の疼きが最高潮に達し、呼吸すらままならない。
私は気を失いそうになりながら川面に引き寄せられていく。
私の思考はもがく、必死に。
しかし足は川にどんどん近づいてゆく。
気が付くと川面は眼前に迫っていた。四肢は蜘蛛の巣に絡まったように動かない。
落ちる、・・・。


 
どのくらい経ったのだろう。目がぼやけている。川に沈んだのか。
そうではなかった。背中に布団の感触があった。
体はべっとりと汗だくだった。
夢、・・・か。
つけっぱなしのパソコンが私を現実の世界に引き戻した。
 
最悪の夢だった。蛙は私が生物の中で最も苦手な生き物だ。それに囲まれて見つめられているような夢なんて。最悪だ。しかも人間の感情まで夢に見るなんて。
しかし半分リアルな夢だった。
自分の無知の為に言葉を探っている自分自身を投影しているかのような夢。

窓の外はうっすらと明るみを帯びていた。
もうじき朝が来る。
今日は病院に行く日だ。この夢の話をするべきか、いやその時の気分次第でいいか。

さて、この夢を現代詩として投稿し、ジャズでも聴くか。
私はおもむろに煙草を引き寄せ、ゆっくりと火を点け、
朝一番の一服を心ゆくまで味わった。


自由詩 一服まで Copyright ヒヤシンス 2013-08-07 04:53:46
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