いきそうになったら言って
北橋勇輝

第一レースで君は僕に向かって
「いきそうになったら言って」と溜め息を吐くように言う
それは優しさですか? それとも愛ですか
そんなこと、どうでもいいんだ

たまに小さな嘘が吐けたらいい
誰も後悔しないような そんな嘘を
きっと僕は何かから離れたくて
こんなことをしているんだろう

そんな時に君は言う「いきそうになったら言って」
言ってどうにかなる問題じゃない
出来れば第一レースが始まる前に
僕を反則にしてほしい

悲しみがリードしている
僕はバトンを落として
観客から罵声を浴びている
それでも君は「いきそうになったら言って」と僕に向かって言う

もう既にいってしまったよ
ごめんなさいは言わないよ
言ってどうにかなる問題じゃない
「行きたいところがあって」と僕は君に言う
君は少し面倒臭そうな顔をしたから
僕はなるべくここから近い場所の名前を言った

「いきそうになったら言って」
そんな使い古された言葉
君が使ってるのを聞くと非常に残念な気持ちになる

電気を暗くしてほしい
いきそうになったら言ってほしい
このことは誰にも言わないでほしいって
おいおい、君はどれだけわがままなんだよ


自由詩 いきそうになったら言って Copyright 北橋勇輝 2013-08-01 05:55:12
notebook Home