闘病
Tシャツ

 C型肝炎の投薬治療を初めてから2ヶ月。ここ数週間で5キロもお肉が無くなった。鏡の前に立つと、フライドチキンな僕が死んだ目をしている。でもおいしくなさそうだって思う。副作用はだんだんに出てくるってお医者が言ってたなって思い出す。僕の投薬は、特に副作用が強い薬。僕は大学で物理を学んだ。純粋な物理学。でも、社会に出ると何の役にも立たない。就職活動を通して思い知った。僕は物理がロマンチックだって思ってた。海を見て、大地を見て、空を見て、宇宙を見る。とてもロマンチックだって子供の頃から思っていた。僕は冒険家になりたかった。僕は戦闘機のパイロットになりたかった。僕は幼心に無理なんだって思い知っている。ロマンチックだと思っている物理を学んで大学を出て、僕は写真が撮りたいって知る。プロじゃなくていい、ただ撮りたいって思う。それにはお金がいる。現像代も馬鹿にならない。僕は就職活動中。でも、なかなか大変だなって思う毎日。心臓が悪いうえに、投薬中の僕は役立たず。両親を安心させるためにも就職しなければならないと思う僕の心は、だんだん疲れてくる。きっと薬の副作用も大きい。とっても疲れる。心が何も考えたくないって叫ぶのがわかる。週に3回注射を打つ。僕の体は10代の乙女の心のように敏感に反応しちゃう。頭が痛い、熱が出る、食欲も無い。僕は5キロやつれてしまった。最近は動悸も激しい。でも、誰にも言えない。きっと治療を中止されるから。バイクに乗ってるだけでぜぇぜぇ言ってしまう。バイクは実は体力を使う乗り物なんだって、どうでもいい新発見をしてしまう。周3回のバイトも、レジを打っているだけで息が切れる。仲間にばれないように必死で息を整える。いつかTシャツ呼吸法なんてあみ出して、一山儲けるかもしれないって思う。僕は働くのが好き。それは何も考えなくていいから。心が疲れないし、もともと働くのが好きなんだろうとも思う。家でおとなしくしている時はもう最悪。入院していた頃に隣のベットのアニキから聞いた話を思い出す。精神科病棟の受付に行った時の話。ロビーは超満員。でも誰も何も話さない。みんな目がうつろなんだよ。しかも君みたいな若い子ばっかりだよ。って話してた。きっと家にいる時の僕はそれ。何も考えたくない。体も心もズタボロって言うのはこういうことなんだって初体験。テレビを見る、映画を見る、本を読む。でも、僕の心はどんどん疲れる。何故?おそらく薬のせいだと思う。あと10ヶ月投薬を続ける。僕の心はどうなっているだろう。夜寝る前に天井を眺める。外の街灯の光が僕の部屋に差し込んできて、部屋の角に濃い明暗を作る。僕はそこに吸い込まれたくなる。きっと生きている事も死んでいることも、大差は無いんだって思う。光と闇に大差が無いように。僕は眠りに就く前に思ってしまう。一体何と闘っているのだろう。病気だろうか。もし病気に打ち勝ったとして僕は社会人になれるだろうか。いや、違う、両親をどうしたらいいのだろう。一体僕は。そして、薬の副作用について思い出す。極稀に、心不全、脳内出血等により死亡する場合があります。僕はどっちが痛くないのかなって思う。心臓か脳か。できればせっかくだから心臓はやめてもらいたいなって思う。そう、寝てるいる間にそのまま逝かせてくれないかなって。きっと薬のせいだと思うでも、僕は考えてしまう。僕は何の為に闘っているのか。


散文(批評随筆小説等) 闘病 Copyright Tシャツ 2005-01-04 02:11:25
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