ひとつ 呼吸
木立 悟





こがね色の岩の洞
居ないものの影が映る
葉より上に浮かぶ捕食者
傷のように緑を焼く


骨と星 骨と星
白紙が白紙に落ちる距離
昇る泡のなか
線を描いて


猫の一歩 街の一歩
何もない夜の切れはし
白い音のかけらばかりが
地平をくりかえしくりかえし巡る


息を吐き 息を止め
ゆらめく陸のかたちを吸う
冬を縛る冬の糸
凍る川をすぎてゆく眼


となりあう小文字が青になり
意味を超えてかがやいている
雨のあとの灯 灯のあとの雨
壁も空も鉱の夜


聖人ではないものらが雪に埋もれ
ただ春を待ちつづけている
枝の嵐が幾度も吹き荒れ
白さえ白を失くした原に


狂った空からつづく海
静かにつぶやき 透きとおる蒼
祭や家族のまぼろしが
坂道に焦がれ 打ち寄せる


舟が流れ着き
子らは下りる
見知らぬ冬が
森のむこうにゆらめいている


うたであり うたでないもの
洞の襞でありつづけるもの
朝を覆うひとつの花
明るく荒んだ呼吸をする



























自由詩 ひとつ 呼吸 Copyright 木立 悟 2013-07-31 09:38:22
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