蝉の話をしてあげよう
佐東

蝉の話を
してあげよう
焦がされるまで
力のかぎり

蝉の話を
してあげよう
身体をふるわせ
夏を生きる

きみを
やさしく包みこむ
ていねいな
風通しのよい
午後の産着の
そのように

溢れる緑の只中に
ちいさな手の中
力いっぱい握られた
やくそくの合唱
そのように

夏うまれの
きみに

蝉の話を
してあげよう




* * * *

瞳を
見つめてはいけない
ひぐらしの瞳を

夏の森は
いのちの影を
より濃くしながら
内耳の奥に
寄りそう
青い かなしみ

草いきれ
つちの底から
せり上がる熱量
ながれない川のほとりで
雨を
見つめている
たくさんの
わたしたちの
梢に絡まった
声の輪を
解こうとしている
幼い空

いくつもの
はじまりの中で
空は
静謐さを取り戻し
焦がされてゆく
僧侶の
抜け殻の放つ
体温が
夜に咲く

翅のある
いきものよ
わたしたちも
また
手足を
折り曲げ
つちの中へ
いのり を
鎮めてゆくから

とどかない
星と
星の隙間で
声を見送る
瞳が ほしい







自由詩 蝉の話をしてあげよう Copyright 佐東 2013-07-24 16:42:14
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