ふたたび、レヴィナスのイリヤ
はなもとあお

【ふたたび、レヴィナスのイリヤ】


戦争で、なにもかもが変わってしまった、のに、
世界は、なおも、ある
中心をうしない、意味を奪われた、
そんな、世界が残されて、ある

死者がもたらした、穴だらけの世界に
生き延びたものたちの日常が訪れ
イリヤの発する言葉が無を満たし埋めてゆく
死者がもたらした無さえ、何もかもを無意味にしてしまう、存在の悪

想像のなかですべてを破壊したのちにも
ある、は、あり
存在することを自ら引き受けることのない
沈黙の呟き、人ではないものの、闇が訪れる

闇はざわめき
わたし自身の意識さえ透明に闇と溶け合い
もはや「私」ではない<ある>が、目覚め
無数の死者たちの声にならない声が、ある、となって「私」に詰めよる

<ある>が、触れてくることへの恐怖
<ある>のなかで生き、責任をとれるものとして、残されたことに対する
重みが
世界として、ある、ということ



そんなにも「私」を責め続ける
戦争というものがもたらす
無、と、ある、を
愚かにも、まだ、繰り返すというの



あたりまえに、ある、ことが
ありがたさ、ではなく、苦痛に変わる
不幸な視線に埋め尽くされる
戦いの嘘を
ある、ことがもたらす、意味のなかで
理想をもって積みあげてきた人生を
無意味なものにしてしまう
剥奪のちからを
わたしたちの世界は、必要となど、していないという
学びを
いつになったら
支配欲以外の理性で
平和にありつづける、ある、を
もたらす判断をできるようになるのだろう
守るって
血を流さないで
正しい言葉で導いていく
難しい行為
国の判断を人任せにしないで選んでいくこと
レヴィナスのイリヤの思考を無駄にしない
戦後の、ない、世界をのぞむ
経済も
食の安全も
人権も
すべて
平和があってはじめて価値のあるものだから
平和な世界をもたらすことを
いちばんに考えたい
2013.07.19


参考文献
『現代思想フォーカス88』  木田 元 編  新書館





自由詩 ふたたび、レヴィナスのイリヤ Copyright はなもとあお 2013-07-19 15:17:20
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