夏の伸びしろ
佐東

とろんとろに
とけはじめてる
ゆでめんのような道端で
ひまわりの言語が
じりじりと焦がされてゆく

夏 ですね

いつかの遠浅に
置き忘れたままの
白い椅子に腰かけて
ちょっと うたた寝



* * * *


きみは
のばし始めの髪を
はちみつ色に束ねていた
不器用な手つきで
小さなビニールプールから
今にもずり落ちそうに半身を乗りだして
ホースのさきで弧を描く
虹の輪をくぐろうとする
その透きとおる体ごと
夏に
置いてきぼりにされるようで
手をのばしても
とおく
ふれることのできない
午後の


* * * *



夕立が夏の庭を
生ぬるい微炭酸の海に変える

夏草の影から立ち昇る
気泡の一つ一つには
ちいさなさかなが
ねむっている

(さかな)

      (さかな)

しばらく中空を
ゆうら
と漂ったのち
こきゅうをなくして
落ちてくる

(さかな)

      (さかな)

(あおむけ)

      (の)

きみは
ぴくりとも動かないさかなを
胸にしまいこんだまま
いつまでも立ちすくんでいた

幼い夏の庭で

とうめいなさかなと
ちいさな水の影と

細ながくのびてゆく
夏の背と





自由詩 夏の伸びしろ Copyright 佐東 2013-07-14 20:23:26
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