ヒトは神になり得るか
HAL

その計画は1991年に始まった
世界でも優秀な研究者が6ヵ国から集められた

その計画の名前はヒトゲノム計画
ヒト1人分の遺伝子の配列を解読するのが目的だった

より簡単に述べるならヒトの遺伝子情報をすべて解読すること
遺伝子は細胞の中にある23種類の染色体に収められている

それは延々と繋がる丸い球で構成され配列となる
その球は4種類の物質 A, T, G, C,で表される

配列は領域ごとに役割を持っている
その領域ひとつひとつを遺伝子と呼ぶ

その配列がどんな順番で並んでいるのか
特殊レーザの照射で配列を解読する

当時は30億の遺伝子があることと
その96個の配列解読に成功した

その解析をすべて終えたのは2003年
世界の智慧が結集して12年の歳月を要した

それが2年後に次世代DNAシーケンサーの登場で
一度に29万個の配列解読が僅か一日で行えるようになった

そこから膨大な遺伝子データの集積が始まった
それぞれの配列の意味を探究する為のデータが必要だったからだ

そしていま白血病・肺線癌・膵臓癌・繊維肉腫・乳癌・悪性黒色腫の癌は
RAC1遺伝子に異常が起こると細胞分裂を暴走させることが分かっている

その暴走を抑制するのがALK遺伝子でありその遺伝子を含む新薬は
画期的な治療方法として遣われ始め確かな効果をあげ始めている

しかし いま中国ではIQ160以上のこどもを集め
天才の遺伝子配列がどうなっているかを調べ始めている

その目的は述べる必要もなく分かるだろう
さらに衝撃的なのはアメリカ合衆国に於いては

体外受精のための卵子の遺伝子情報を調べ
異常のある卵子は受精から排除されている

そうそれは命の選別と呼ばれるもののはずであり
神の領域にヒトが足を踏み入れたことを意味する

さらにそれらを規制する法律はどの国にも
未だ議論すらも交わされず存在していない

それは“個”を消失し人間の多様性を消失させ
秀でた者だけが生き残る世界を創ることでもある

それを知り果たしてヒトは神の領域に踏み込み
結果としてヒトは神になり得るだろうか

簡単には辿り着けない問いではあるだろう
なり得ると答える人間もなり得ないと答える人間もいるだろう

しかし長い歳月と先端的な叡智と先端技術によって
ヒトは神になり得る方法があることを知ってしまった

後はヒトが神になることを望むか望まないかだが
果たして本当にヒトは神になる得るだろうか

これまでの宗教観も人間の尊厳をも捨て去って
究極の問いとしてヒトは神になる得るだろうか





参考資料:新しい遺伝子工学:半田宏著/(株)昭晃堂
     遺伝子工学の基礎:野島博著/東京化学同人
     遺伝子工学の衝撃:石田寅夫著/講談社
     神と遺伝子/金承哲著/教文館
     NHKスペシャル
     “あなたは未来をどこまで知りたいですか〜運命の遺伝子〜”
     週刊現代 野間博行“賢者の知恵”
     ジョンズ・ホプキンス大 ガブリエル・ロネット博士インタビュー


自由詩 ヒトは神になり得るか Copyright HAL 2013-07-14 17:14:50
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