幻獣
青井


彼は幻なので
だれに気付かれることもなく
子ども料金で改札をくぐれる

彼は幻なので
人目を気にすることもなく
パンツ一丁で町角を歩ける

彼は幻なので
特に悪びれることもなく
優先席で好きなだけくつろげる

彼は幻なので
人目を盗む必要もなく
試食のウインナーを食べ放題だ

こっそりキャラメルを盗んでも
ゆったり立ち読みをしていても
だれに怒られることも
笑われることも
ほめられることもない

彼はときどき涙を流すけれど
それも幻なので
彼自身も
泣いていることに気付かない



自由詩 幻獣 Copyright 青井 2013-07-08 22:42:14
notebook Home