ボトルシップの夢
ヒヤシンス


静かな喫茶店の窓辺で、ボトルシップが壮大な夢を見る。
うすく青みがかった壜の中、彼はすでにその大海に彼方を目指していた。
誰にも目的地を語る事もなく。ただ彼はそっと一言、
自分が本物のカティーサークだ、と周りを気にしながら僕の耳元で確かに囁いたんだ。

飲みかけの珈琲に酸味を感じ、僕は彼が少し心配になった。
窓際のボトルシップの位置は変わってはいない。しかしうすい青が激しく揺れていた。
たまらず僕は彼に小声で話しかけた。大丈夫かい?
今それどころじゃない!と彼の叫び声が聞こえた。僕はびっくりして思わず周りを見回した。幸い誰にも気付かれてはいなかった。

僕は煙草に火をつけて、ゆっくり、静かに一服した。
横目で壜の中の勇者を覗くとすっかり船は濡れていた。しかしなんとか荒波をやり過ごしたようで、今はもう静かな大海原にぽっかり漂っていた。

あぁひどい目にあった。なんて水曜日だ。彼は僕に聞えるように叫んだ。
その声は少しくぐもってはいたが。
僕は彼に言った。大変だったね。しかし彼は少し微笑みながら言ったんだ。
俺は本物のカティーサークだぜ。

喫茶店の店内ではジョニ・ミッチェルのBLUEがしっとりと流れていた。


自由詩 ボトルシップの夢 Copyright ヒヤシンス 2013-07-07 21:13:38
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