アフリカ
佐東

そうだ アフリカへ行こう!!

そう言って父が
長年勤めていた会社を依願退職したのは
定年への秒読みが開始された
梅雨の明けきれない
じめじめした蒸し暑い日だった
それ以来
キッチンに立つ母の規則的な包丁捌きが
うんばば うんばば って
なんちゃら族のリズムになるし
わたしの夢の中に
黒柳徹子がハイジの格好で出て来て
わたしと自転車の二人乗りで
クワイ河マーチなんて口笛で吹いてる

そんなわたしと母の状況を知ってか知らずか
相変わらず日本国内の梅雨のじめじめした空気を纏う姿が板についてるっていうのに
乾いた頭皮を光らせてアフリカ
アフリカ アフリカ

あ 父の肩に南国の鳥がとまってる!!

リビングの明るいとこに置いてある
ストレリチア レギネの鉢だった
三本の花首をシューっともたげて
ソファーに座る父の肩越しで明けない空を眺めてる
きっとその方角に
キンシャサだかウガンダだかケープタウンだか象牙海岸だか

第一志望の会社の面接に落ちたわたしの事より
贔屓の球団が優勝を逃した事に落胆の息を吐くような父は
お前はキリンと象とライオンと
どれが好きだ?
わたしは今
白いフェレットが欲しい
白いフェレットの絵葉書はナイロビ空港には売ってないよなあ
いや絵葉書じゃなくって
いや絵葉書だろう

父の体は既に
わたしや母や福岡空港や成田空港や子午線やインド洋を遥かに超えて何処までもびょーんって伸びている

新町の交差点で父の挨拶を拾った元職場の同僚の人が
ご丁寧にうちまで届けに来てくれた
スワヒリ語だったのでもしやと思ったら案の定だって
そんなに前からアフリカだったのね
わたし何も知らなくてごめん
アフリカに行く前に写メとか撮っといた方が良いのかな

その夜
元同僚の人に
マサイジャンプをキメながら
南国風のスパイシーな料理を黙って振る舞った母は
きっと近日中には狩猟民族になるのだと思う

ささやかな出国記念パーティーの途中
父が耳元で
お前も死ぬまでに
何か好きな事を一つでもやっときなさいって言った言葉を
父の居なくなった
じめじめしたリビングで
ストレリチア レギネの鉢に
水をやりながら
思い出している




自由詩 アフリカ Copyright 佐東 2013-06-27 16:25:09
notebook Home 戻る