引き潮/あとさき
佐東

「夕凪」

遠い昔
粉々になった水平線が
白い海鳥に姿をかえました

白い海鳥の
さいごの羽ばたきで
のばされた夕凪で
ひきよせられる
白い骨



「内緒」

わたしの脊髄には
水平線のかけらが
入ってるの

う そ



「五線譜」

浜木綿の葉の上に
浮かび上がった
みどり色のト音記号は
夕立のまあるい指先で踊りだすから
夏をかさねた水玉もようは
重い足取りで
もう夏をやめようと思ってるって
聞いた事がある



「引力」

きみの
やさしい引力にひきよせられる
わたしの人さし指は
きみのくちびるのかたちをなぞって
静かの海の渚で
ホシマネキの仕草を真似る



「ホシマネキ」

星のかたちの外骨格をもつ
雌雄同体の甲殻類
流星雨の音を求めて
夜の渚でないている



「白い花」

背中から
ひらかれてゆく
わたしの水平線
手渡された
夏への結び目を
ほどくきみの口もとで
白い花が ゆれている

わたし
その花の名前
知ってるの


う そ だ よ




自由詩 引き潮/あとさき Copyright 佐東 2013-06-26 15:56:10
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