ちっこい幸福論
HAL

朝 陽光と爽やかな風に気づいて
眼を醒ます

ふらりと入った喫茶店の
偏屈そうなマスターの淹れる珈琲がすこぶる美味い

擦れ違った女性の残り香は
懐かしい女性のディオリッシモ

他人様からみれば馬鹿みたいなことだけど
それが幸せだとようやくに気づく

生はそんな些細な幸で
できあがっているものだと知る

別に豪邸に住まなくとも
口座に何億という数字は幸を測るものではない

それは幸福の近似形でも
幸福の永久保証書でもない

善い人生はそんなもので
得られる訣じゃない

その辺の道端に転がる石っころのような存在が
実は繋がって人生はより善いものになることを
いまようやくに気がつく

もちろんこれまで幾度も挫けながら歩いてきた
吹きつづけたのは向かい風
背中から吹く順風はほとんどなかった

多分 残っている時間はきっと想う以上に少ない
でも終わりよければすべて善しとの先人の言葉

先人はつくづく偉いと
ため息ひとつつく
いい歳をした自分が可笑しい
それを信じてもう一歩踏み出す
いい歳をした自分が愛しい


自由詩 ちっこい幸福論 Copyright HAL 2013-06-21 11:41:29
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