夢の跡地
済谷川蛍
アパートの前に半壊した木造の2階建ての家があったが、今年の夏休み、地元から帰ったらきれいさっぱり壊されていた。なぜか残された白い西洋風のポーチが、敷地内に広がる茶色の地面と対照的だ。2対の細身の紅葉が双子のように根付いている。井戸にはロープで結界のようなものが張られている。徹夜明けの早朝に一度ポーチに立ってみたが、農閑期の畑のような空間が広がっており、公園にすればいいと何となく思った。そしてそこに小さな観覧車を建てて、ゆっくりと世界を俯瞰してやるのだ。
広場では子猫が活溌溌地に追いかけっこをしている。親猫があくびをする。ブランコに腰かけた少女がお気に入りの白猫を膝の上に乗せ無表情でなでている。お気に入りの少女を安全な距離から眺めている少年の臆病な背中が見える。ときどきゴンドラに子供たちと一緒に乗り合わせる。窓をのぞくと茶色の地面に黒や白の点となった猫たちが見える。室内は子供たちのせいでとても温かく、また部屋が狭くなるのが楽しかった。複雑に入り組んだ滑り台のようなものの上を台車がゆっくりと走るジェットコースターのようなものが見えた。いつ出来たのだろう? 子供の一人が指をさす。茶色い地面いっぱいに、木の枝で描かれた可愛いキャラクターの数々が見える。みなが笑う。僕はその笑い声に懐かしい情念がこみあげられ、涙ぐみながら彼らといっしょに笑った。こんな気持ちはいつ以来だろうか?
猫が死んでいる。それは実家で飼っていた猫だった。なぜかここにいた。こどもたちは1人もいなくなっていた。焦燥感と諦念と悲しみに包まれる。線香から青白い煙がたえまなく奇妙にうねりながら風景へ溶け去ってゆくのを見た。猫の死体をなでた。肉体と精神の入れ替わった世界。僕はこの世界から追い出され、現実の世界へと目覚めていく……。