蒸気機関車
済谷川蛍
銀で出来た蒸気機関車が黄金の煤煙を噴きながらプラチナのレールを走ってくる。よく見ると煤煙は大量の金粉だ。噴射され空中へ舞い上がったあと、キラキラと輝きながら草原に降り積もる。煙突から噴き出る大量の金粉はまさしく炎のようだ。
大小組み合わされた芸術的な車輪の群れが連結棒の複雑な動きによって回転する様は機能美の極致だった。牽引された貨車には石炭の代わりに大量のダイヤモンドの原石が山と積まれ次から次へと通り過ぎていく。
一体何台の貨車が通り過ぎたのか。汗ばんだ子供たちの肌には降りかかった金粉が張り付いている。父親が息子を両脇で抱え、日焼けした少年は胸を反らして両腕を大きく広げた。
人々は帽子をひっくり返して期待に胸を膨らませている。派手な音を立てて急行する貨車から一欠けらの原石がこぼれおち、帽子の中へ入った。貨車に山と積まれた積荷はダイヤモンドの原石からルビーに、ルビーからエメラルドにと幻惑的な変化を見せながら人々の帽子の中へ惜しみなく撒いた。人々が歓喜に沸いていると、ブルーダイヤを積んだ最後尾の貨車が通り過ぎていった。それまで続いていたどことなく荘厳に感じる列車の通過音が遠ざかっていくと魔法が解けていくようだった。金粉の舞う大空にフルートのような汽笛が遥かな天上に響き渡り、人々は手を止め一様に頭を下げた。