遥かなるギターバトル
壮佑


風になびくしなやかなロン毛
枯れ木のような長身の体躯
痩せた頬 ニヒルな口元
あいつは武蔵野の小平市あたりの
砂塵の中から姿を現わすと
背にしていたソフトケースから
フェンダー・ストラトキャスターを取り出した

こちらは枝毛いっぱいのロン毛
いつ洗濯したっけストレートのジーンズ
眠たそうな眼 剃り残しの髭と細かな切り傷
ジミー・ペイジを真似てダラリ低く構える
黒のギブソン・レスポール・カスタム
 (嗚呼、安価な国産コピーモデル〈グレコ!〉)

カタズを飲みながら
二人を遠巻きに見つめるグルーピー達
これより十数年後に映画『カリフォルニア』で
連続殺人犯を演じるブラッド・ピットが
ヒトの頭をカチ割りながら歌うことになる曲
レナード・スキナードの『フリーバード』で
ギターバトルが始まった

龍のように空を駆け
唸りを上げるストラトキャスター

ううこやつできる相当な手だれと見た
ならば俺も聴かせてやろう
冥府の底から鎌首をもたげ
尾骨から脊柱を上昇し脳天から体幹前面を下降し
全身の奇経八脈を二重螺旋を描きつつ高速回転すると
脱糞寸前まで臓腑をエグるレスポール・カスタム
 (嗚呼、安価な国産コピーモデル〈神田商会!〉)

正直言って
テクニックでは敵わねえな
しかしノリと言うかなんちゅうかグルーヴ?
えーっと ドライヴ感では
俺は (ジョージよりは)自分の方を買う!
とジョン・レノン・インタビューの科白を借りて
負け惜しみを言っておく

だが未だ勝負はつかぬと見たか
あいつはマイクスタンドを引き寄せると
どうやらヴォーカルをやる構え
その仕草のカッコよさに
グルーピーの間からため息がこぼれる

ぬうヴォーカル……
まずいぞぉ
俺は以前ブルースを歌って
もの凄く悲惨な結果を招いたことがある
Everyday, Everyday I Have The Blues〜
シャウト気味の高音部になると
いわゆるニワトリを絞め殺したときの
鳴き声みたくなってしまう
「おんなこどもにROCKがわかるかぁ!」と
ちゃぶ台ひっくり返してビンタ喰らった
ロック家父長主義者(初期の頃のみ)の私とて
グルーピー達の視線は
まんざら気にならないわけではない
一週間再起不能の万年床で俺は悟った
ぼくはどうも
ウタは歌わない方がいいらしい

あいつがイントロを弾き始めた
Z・Z・TOPの『バリニーズ』か
わりあい歌い易い曲じゃねえか
しかしながら
あいつが歌い出した時
いったい何が起こったのだろう
俺もグルーピー達もバンドのメンバーも
すぐには眩暈がして気が付かなかった
こ、これは……

我々は悟った
なんと!
あいつのヴォーカルも
俺のそれに勝るとも劣らない
かなりヘロヘロな情けないものであったのだ
あいつ自身はそれに気づいてはおるまい
この事態をどう受け止めたらいいのか
当惑顔のグルーピー達
俺の口元に歪んだ笑みが浮かぶ
ふしゅるる……
どうやらおぬしも
ウタは歌わん方が世のため人のため
けどなんかあいつけっこういい奴じゃねえか
なかなかの好青年じゃないか!
ネックにプリントしてある Fender のロゴも
よく見りゃ国産 Fernandes じゃねえか
にわかに湧いてくる連帯意識
時あたかもワレサ率いるポーランドの『連帯』が…
っとそんなんぜんぜん関係なし
速弾きじゃあポイント持って行かれたことだし
まあここは痛み分けってことにしようや
俺はヴォーカルをやるベーシストに合図すると
レナード・スキナードの曲のイントロを弾き始めた
『オン・ザ・ハント』だ

  遠い昔
  親父が俺に言ったもんだ
  息子よ
  お前は二つのことを知らにゃならん
  ただ二つのことだ
  ただ二つのことに誇りを持て
  そいつは馬と
  もう一つは女だ
  どちらも乗りこなすのが難しい
  そうでしょ?
  son & sister !

お次はZ・Z・TOPの
『ラ・グランジ』
周囲の迷惑をまったく省みることなく
ギターのアホ二人の大アドリブ大会は延々と続く
ジミヘンが最も期待できる若手ギタリストと評した
ビリー・ギボンズのギターは渋いのう
おぬしもそう思う?

国分寺の『百薬の長』でコップ酒を飲みながら
俺はあいつをバンドに誘った
いまさらツェッペリンというのもアレだし
キング・クリムゾンの『戦慄』や『レッド』みたいな
ハードプログレをやりたいのは山々だが
フリップ先生はちょっとばかしレベル高いし
ここは脳天気な
アメリカンくそハードロックを
おぬしと俺のツインリードでやりまくろうや
カクタスにモントローズにスターズにエアロスミス
最近V・ヘイレンの名をよく聞くね
マホガニー・ラッシュはカナダだっけか?
オリジナルにも挑戦して
LP製作に取り掛かってるんだ
参加してくれよ

そういうわけで俺達は
コマンダー・コディ&
ヒズ・ロスト・プラネット・エアーメン
というのをお手本にしたバンド名を付けて
活動を開始した

LPが出来上がった頃
あいつはソフトケースを背に
田無方面の辻風と共に去って行った
…どうせ一つところに
落ち着くような奴じゃなかった

…時が経ち
俺の自己破壊的ロックは
俺の中のMUSICを破壊した
俺はギターをチューニングせずに
フリー・インプロヴィゼーションするようになり
それはそれで新世界が開けたが
ギターを置いて「行為」をやったりして
終いにはギターを弾くことを止めてしまった
ああせいせいした
うっとーしい表現のデエモンよさようなら
そのまんま俺は歳を取り
この前なんかチューニングのやり方を
完全に忘れてしまっていることに気が付いた
めでたしめでたし
めでたしめでたし
めでたし……

本当に
めでたしめでたしか?

街に出ればゴールデンウィークの人波
イオン駐車場の特設ステージから
ガールズバンドのライヴが聴こえて来る
それで、ギターの音はどうなんだ?
うん、ちょっとオリアンティばりでいいねぇ

だけど俺にとってのギタリストは
龍のように空を駆け
唸りを上げるストラトキャスター
今もこの耳に聴こえて来る
遥かなるギターバトル





※「ロック家父長主義」=ロック黎明期には多く見られたが、現在はほぼ絶滅。筆者の場合、QUEENの初来日公演時の女性ファンやグルーピー達のパワーの凄まじさに心底恐怖し、以後軟弱にも転向した。
※zz・TOP『La Grange』
http://www.youtube.com/watch?v=cnMFOeEPUks
※LYNYRD SKYNYRD『on the hunt』
http://www.youtube.com/watch?v=blQ59ou_kHM
(引用した歌詞は超テキトー訳)











自由詩 遥かなるギターバトル Copyright 壮佑 2013-06-07 20:30:30
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