帰郷
佐々宝砂

新聞縛るために買ってきた紙紐を
首に巻く
ぎり ときしむ
苦しがる顔を見たいだけだから
すぐゆるめて
とっとと消えな
とうそぶこうとして
やめる

感情なんて要らない
悲鳴も聞きたくない
黙って死んでいってほしい
あるいはひとりで勝手に生き延びてくれと思うよ
私の目に触れないところで

岬の古いホテルは取り壊し中
年末なので取り壊し工事はお休み中
煙草をくわえて
「危険! 近寄らないでください!」
という文字を横目に
取り除かれた壁の残骸のうえに立ち
のびをする
埃っぽい空気
磯くさい風
海はいつになく荒れて
泡立つ波は道路を濡らしている

帰るところがあるんだろ
あるんなら帰りな

私はようやく帰ってきたので
いましばらくは
この埃のなかで
こうして立っていたい


自由詩 帰郷 Copyright 佐々宝砂 2004-12-31 02:48:28
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