ぼくらの七日間幻想
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ファミリーレストランで、家族が蟹を、食べていた。母が、父が、姉
が、蟹を。脚を砕き、殻を剥き、みそを啜り。時折、ウェイターが空
いた皿を下げにやってきたが、それに目もくれず、蟹を、食べていた
。それを、僕は国道からずっと見ていた。携帯が鳴った。とても誰か
と話す気分になんてなれなかった。

夕暮れに、吠えない動物を買いにゆく。からだは石鹸できれいに洗い
、爪はみじかく切りそろえる。水色のサンダルを履いて、商店街をあ
るく。卑猥な風が、人の首の数をかぞえてゆく。猫背になりながら、
走る子どもの影を目で追う。手の甲に鼻を近づける。石鹸の匂い。吠
えない動物を買いにゆく。

雨の日に喫茶店を拾った。よく効いた冷房が完備され、よく冷えたウ
ェイトレスが働いていた。傘立てへ無理やり突っ込まれた傘とそれに
よく似た花瓶の花。アイスコーヒーをひとつ注文したが、ウェイトレ
スは午後四時ぴったりにタイムカードを切って帰ってしまった。ひと
りになった。やがて、雷がなった。

理髪店のハサミは夢見る。うまれたての赤ん坊の小指を切り落とした
いと。けれど、そんな爪切りみたいな妄想はわすれて、今日十四才の
誕生日を迎えた、弓道部の男の子の後頭部を刈りあげている。前髪は
どうしますか?「長めで。」少年のひだり眉の上には小さな傷があっ
た。きっと、それを隠したいのだ。

二段ベッドを買い、一階はどうぶつ園、二階は空港に改築した。夜中
にもかかわらず旅客機はたくさんの人と荷物を乗せて、蛍光灯の光の
下、飛び立って行った。それを柵の間からニホンオオカミがまっすぐ
な目で見つめていた。僕は床にふとんを敷いて、ながい眠りにつこう
と思う。どこにも行きたくない。

ファミリーレストランで、蟹が家族を、食べていた。母を、父を、姉
を、蟹が。脚を砕き、殻を剥き、みそを啜り。時折、ウェイターが空
いた皿を下げにやってきたが、一瞥して、また家族を、食べていた。
それを、僕は国道からずっと見ていた。携帯が鳴った。とても誰かと
話す気分になんてなれなかった。

僕は今とても憂鬱だからサキソフォンを吹いても土から掘り返された
ばかりの手首を抱えている気分です。指使いは絡まった縄跳びの紐を
解いている仕草に酷似していて肺を患った犬の咳払いみたいな演奏し
か出来ません。近所の園芸愛好家が花を届けに来ました。その腐った
土の匂いを手向けないでください。

霊柩車と救急車のあいだに子どもが産まれた。射手座のかわいい女の
子だった。名前は天使といった。天使にするか悪魔にするか大変悩ん
だが、よく笑う子どもだったので天使と名付けた。しかし大人になる
と多感な季節にさかんに泣くこともあった。黒猫を見るだけで遠い父
のことを思い出す日もあった。

とても面白いことがあったので腹がよじれて耳がただれそうなほど笑
い転げた。白い歯をこぼしすぎてあごの噛み合わせが悪くなったので
病院へ行った。余命はあと一年から百年だと宣告された。医師は「余
生は好きなだけ笑い、天寿を全うしなさい。」そう言って手から鳩を
出す手品をして見せてくれた。

歯が生えたお祝いに友人を招いてパーティーを開いた。風船ガムをみ
んなで膨らますだけのささやかなパーティーだった。ガム風船がなん
ども音を立てて割れた。みんなのガムの味がなくなったのを確認した
あと虫歯にならないことを祈って解散した。でも本当は僕のガムだけ
ずっと甘かった。言えなかった。


自由詩 ぼくらの七日間幻想 Copyright sample 2013-06-05 00:48:10
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