カモン・レッツ・ゴー
壮佑


1966年 ザ・マッコイズは
アメリカ中西部の街で「Come On, Let's Go」を歌った
飛行機事故で死んだメキシコ系アメリカンのロックン・ローラー
リッチー・ヴァレンスの曲のカヴァーだった
数か月後 日本の瀬戸内海沿岸で
一人の丸刈り頭の中学生がその曲を聴いた
オハイオからやって来た風が夏至の海の波頭を掠めると
島々の間を吹き抜けて行った

                                ザ・マッコイズは
                 ティーンエイジャー向けの白人4人組バンドだった
       ヴォーカルと歯切れのいいギターを弾いていたのはリック・ゼーリンガー
                  ジャニーズ系の美形であったことはまだ知らない
                               ラジオだったからね

もっとも当時は イケメンやビジュアル系といった言葉はもちろん
ジャニーズ系なんて言葉も無かったから
ブライアン・ジョーンズの後釜として
ミック・テイラーがローリング・ストーンズに加入した時
「フォーリーブス的カワイコちゃんが不良の巣窟ストーンズに入った!」と
日本中の奴が言ったもんだ
フォーリーブスもジャニーズ事務所だったから
当時からジャニーズ事務所は凄いなあと
そっちの方に感心する人もいる(いない)

                                60年代が終わり
                            ザ・マッコイズは消滅した
                             かつての丸刈り中学生は
                国鉄新幹線ひかり号の窓から瀬戸内海に別れを告げた
             校則が長髪OKに変わったのは中高一貫の高三の時だったから
                           さよならくそったれ男子校!
                       でもって髪も伸びたしレッツ・ゴー!

リック・ゼーリンガーはリック・デリンジャーと改名し
テキサス出身のアルビノの天才ブルースギタリスト
ジョニー・ウインターのアルバムをプロデュースした
LP「JOHNNY WINTER AND」では
リックと元マッコイズのメンバーがバックを務めている
次に出したライブアルバムでは
リックもブルースのソロを弾いている
ジョニー・ウインターのような派手な速弾きじゃないが
確かな腕前だった

                            1970年代半ばになると
               リックはロックバンド「Derringer」を率いて活躍する
          その頃のソロアルバム「Spring Fever」のジャケット写真を見ると
                          リックの美形ぶりが分かります
                 お化粧して うっとり顔でポーズを決めてたからね
                        ジョニー・ウインターにも提供した
                   「ROCK AND ROLL, HOOCHIE KOO」は彼の代表曲
                       これはノリのいいゴキゲンな曲ですよ

かつての丸刈り中学生はギターのソフトケースを背に
関東ローム層の砂塵が舞う
東京の三多摩地区をうろついていた
さのばびっち&エウレカァ! 世界はROCKで出来ている
で フーチー・クーてのはどういう意味ですかい?
てなことを呟きながら

                  ミシシッピ・デルタのウィリー・ディクスン作で
      シカゴ・ブルースのマディー・ウォーターズが自分のテーマ曲として歌った
                   「HOOCHIE COOCHIE MAN」という曲があるけど
       これが「魔術的パワーのあるモテモテ精力絶倫男」という意味の俗語だと
                 ブルースハープの奴から聞いたのはだいぶ後のこと
                   フーチーが男性器 クーチーが女性器だってね
                    リックの曲の方はフーチー・KOOなんだけど
              HOOCH(強い酒)を一気にあおってクゥ〜〜だったりして

1987年 リック・デリンジャーは
シンディ・ローパーのパリ公演でリード・ギターを弾いた
ポップできらびやかなステージの上を
白のスタインバーガーを抱えて飛び跳ねていた
しかし 90年代にはブルースに舞い戻り
アルバム「Jackhammer Blues」等をリリースした
ジャケットにはストラトキャスターのネックを掴んで俯く中年オヤジの姿がある

                                 その頃にはもう
               かつての丸刈り中学生は瀬戸内海沿岸に舞い戻っていた
                       幾ばくかの失意を胸に? ああそうだ
            墜ちること 生のいろんなデコボコに蹴つまずいてしまうこと
                       それを反復しろ 反復をドライヴしろ
              生をはらわたから掘り返せ それを繰り返せ カッコ悪く
                    それが律動の ロックの 起源だ なんてな

そんな言葉に生かされながら
街をうろつく背中には もうギターとソフトケースは無かった
時折 アメリカ中西部の風が海の方からやって来て
国道沿いの家々の間を
古臭いロックの幻聴のように吹き抜けて行った

                     2007年 夏はやっぱりビールが美味い
                      中学生の娘がリモコンのボタンを押すと
                  テレビ画面にオダギリジョーのニヤケ面が現れた
                        「キリン・ザ・ゴールド」のCMだ
                   バックに流れているのは あの懐かしい呼び声
                            「カモン・レッツ・ゴー」
                            さあ来いよ! 行こうぜ!
                          ああ だが これから何処へ?

ザ・マッコイズの「Come On, Let's Go」は
東京でバンドを組んで最初の頃にやった曲だ
ヴォーカルと歯切れのいいギターを弾いていたのはリック・デリンジャー
ミッチ・ライダー&ザ・デトロイト・ホイールズの
「Devil with the Blue Dress On/Good Golly Miss Molly(悪魔とモリー)」と
どっちを先にやったんだったか 
かつての丸刈り中学生は もう覚えていない






※THE McCOYS『Come On, Let's Go』(3:20秒あたりから。口パクですが。)
http://www.youtube.com/watch?v=QhfGcz-BVks
※JOHNNY WINTER『ROCK AND ROLL, HOOCHIE KOO』(静止画ですが)
http://www.youtube.com/watch?v=goyjEdJeLUM









自由詩 カモン・レッツ・ゴー Copyright 壮佑 2013-06-02 20:20:54
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