宇宙人みたいな顔のやつ
atsuchan69
宇宙人みたいな顔のやつがTVに出ている
どのチャンネルに変えても、
出てくるのは宇宙人みたいな顔のやつばかりだ
そして久しぶりに街に出ると、
高級ファッションで身を固めた
超ド派手な宇宙人みたいな顔のやつが大手を振って歩いている
信号待ちの高級車に乗っているのは
やっぱり、宇宙人みたいな顔のやつだった
会社では上司もなんとなく蜥蜴顔の宇宙人みたいな顔だ
映画を観たら宇宙人みたいな顔のやつが正義の味方を演じている
でも、よく見たら悪役も宇宙人みたいな顔だった
ナントカ賞の小説家も宇宙人みたいな顔をしている
有名な詩人さんも、どことなく宇宙人みたいな顔だ
ふり向くと、妻の顔が宇宙人だった
ああ、もうみんな宇宙人みたいな顔だった
お隣りさんも、ご近所さんも、みんな宇宙人だった
でもボクだけは、ちがう! そう信じて‥‥
朝、目覚めると家じゅうの鏡をぜんぶ割って外へ飛び出した
この町から逃げよう、宇宙人たちから逃げなくちゃ
電車に乗って、タクシーに乗って、歩いて、歩きとおして
人里離れた場所までやっと辿りつくとボクはホッとして寝転がった
仰向けに眺めると、よく晴れた爽やかな青空が広がっていた
突然、光るものが空に一点現われると
やがてそれはみるみるうちに大きくなって
リアルな葉巻型の宇宙船であることが否応もなく確認できた
宇宙船は青いビームをこちらに向けて発射した
船に乗った親切な宇宙人は、テレパシーで
「この光を浴びると楽に死ねます」と教えてくれた
――逃げなくちゃ、逃げなくちゃ!
走った、走った、走った
青いビームは、森を焦がし、山を崩し、
ふり向いたとき視界から大地の半分は既に消えていた
もう駄目だ、もう逃げられない‥‥
その時、唐草模様の風呂敷を首に巻いた
どう見ても宇宙人みたいな顔の男が原付でやって来て
「あんさん、逃げたらあきまへんで」
そう言うと「さあ、これで戦いなはれ」
ロココ調風デザインのシルバー・ピンクの手鏡をボクにくれた。
そうか、こいつでビームを反射するんだな、
ようし! スーパー・ビーム・返しイイイイイイイイイ
ぴかっ、ドガガーン!
まるで漫画じみたフザケタ方法で、
みごと葉巻型の宇宙船は木端微塵に吹き飛んだ
うーん、やれやれ。
勝ち誇ったボクは手鏡をおもむろに覗いた
――あっ。
手鏡の中には、
紛れもなく、
宇宙人みたいな顔のボクがいた‥‥