美しき日々

さよなら。

とぼとぼと歩く夕暮れの影
何本もの電柱の、それと交わる
どこまでも伸びる悲しみ
歩幅の間隔が狭いのは、別に君のせいじゃない


車中に残るカセットテープ、再生すれば
爆風スランプ/RUNNER
歌詞に寄せて、ひたすら走り続けた
僕は何処に辿り着き
誰に、何を打ち明けたかったんだろう
並走する君の手
ゆらゆら
僕は、今でも鮮明に憶えているよ
ゆらゆら
残像に舞い続けた
ゆらゆら
黒髪のカーテンに湿り気
ゆらゆら
ひたすら暑かったから、風を追っていたんだと
言い聞かせて

曲は切り替わる、
ブルーハーツ/TRAIN TRAIN
走り続けて浴びた風は
弾丸だった
それは僕が乱射し続けていた銃の跳弾で
行く宛ての無い無駄弾だった
頬を掠める音
それは、快感だったのかも知れない
君は手を差し伸べていたけれど
僕が掴んでいたのは
腕だった
君の指の隙間から、微かに聞こえていた
ゆらゆら
ゆらゆら
いいじゃん、君を放さなければ
そうして僕は
走った、
走った

曲は切り替わる
プリンセス・プリンセス/M
君は、速度を落としてこの歌を歌った
その時、僕は
掴んでいた腕を離し、跡をしげしげと見つめた
跡が残るのって、嬉しい
麦わら帽子の下で、君は健気に笑って
いつしか、僕の手の
指の隙間を
君が握っていた
ホントは、繋いでいたかったんだろう
離されまいと
強く、強く
握っていた

曲は切り替わる
ユニコーン/自転車泥棒
並走する君の髪が、なびかなくなった時
似合っているよ
そこまで言えるほど、大人じゃなかった
撃ち続けた弾丸は、白球
どこまでも 上昇し続けた凡フライ
県大会準決勝
あの瞬間に、途切れたもの
魚眼レンズの視点で僕を見上げながら、転がった
サヨナラ

サヨナラ

さよなら。



疎らな車と人の影、だだっ広い駐車場の隅っこに
暮れて行く空の色
壮大な、リトマス試験紙
何に浸した
誰に浸した
強引に吐き出されるカセットテープ
ラジオからの中継
巨人対広島、6回の裏、2アウト、2塁1塁。

君は、確かに自転車泥棒
僕は車中に横たわり
もう、息を吹き返すことも無い通学用自転車の
外れっ放しのチェーンを思い出す
カチカチに固まった
錆び
帰宅して、納屋から引っ張り出してみた、それを
近所の公園まで
引き摺って汗だくで、歩いた
歩いた
歩く僕の、傍らを
チリリンと通り過ぎる母校の制服、後ろ姿
まるで、君



さよなら。


やっぱり君は、自転車泥棒だった
それは、あの、後ろ姿のような
自由に風を切って
あっという間に見えなくなったのは
帷の深みのせいじゃない
潤んだ季節のせいじゃない

誰の、何のせいでもないんだよ、




今も捨てられない カセットテープに記されている
ラベル上の、鉛筆書き

サヨナラ。




さよなら。






自由詩 美しき日々 Copyright  2004-12-30 12:14:11
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