(2)アーヤと森とふしぎなひかり
吉岡ペペロ

木々の大きなねっこがとおせんぼをしました

とおせんぼの木々のねっこをお母さんに渡された紙ぶくろを抱えたまままたぎました

最初の足がねっこを越えたときでした

悲しくて寂しい気持ちをアーヤは思い出しました

ヒョウスケくんとのおおげんかは些細なことが原因でした

遊びにやって来るヒョウスケくんをアーヤは家のまえで待っていました

そのまま庭のブランコで遊ぼうと考えていたのです

森のなかからヒョウスケくんの口笛が聞こえてきます

木々の縞模様のあいだからヒョウスケくんが見えかくれしています

ヒョウスケくん、

ヒョウスケくんは家の玄関に向かってすすんでゆきます

ヒョウスケくん、ブランコしようよ、

ヒョウスケくんにはアーヤの声が聞こえていないようでした

ヒョウスケくん、ブランコ、ブランコしようよお、

ヒョウスケくんを追いかけながらアーヤは大きな声で叫んでいました

アーヤがヒョウスケくんに追いつきそうになったのはヒョウスケくんが玄関の扉を閉めたそのときでした

アーヤはなんだか泣いてしまいました

ちいさいころ森で迷子になったときみたいに悲しくなりました

そしてじぶんはやっていないのに怒られたときみたいに寂しくなりました

アーヤはしょんぼり扉をあけました

食卓ではヒョウスケくんがにこにこしながらお母さんの手作りのパンを食べています

アーヤはワーッと叫んで自分の部屋に入ってしまいました

お母さんが怒っています

夕方の影が枕べにとどいています

さっきまで温かかった感じののこる枕にアーヤは顔を埋めていました

お母さんの馬鹿、ヒョウスケくんの意地悪、

そう呟くと涙がとまらなくなってしまいました

アーヤ、ヒョウスケくんがパン一緒に食べようって、

お母さんも、ヒョウスケくんも、だいっきらい、

アーヤは泣きながらベッドのうえで足をばたつかせヒョウスケくんにされた意地悪を叫びました

ヒョウスケくんはパンが大好きだから、ちょうど焼きたての匂いがしていたから、アーヤに気づかなかったのよ、

お母さんに説明されてもアーヤの気持ちはおさまりません

それ以来アーヤはヒョウスケくんと口をきいていません


それからもとおせんぼの木のねっこをいくつもまたぎました

アーヤは少しつかれてしまいました

うえを見上げてひと息つくと木々の枝葉の合間に木漏れ日が見えました

閑けさが耳のなかでわーんと鳴っています

あ、いけない、

我にかえってアーヤはまた歩き始めました

遠くにすこし強いひかりが見えてきました

まあるい芝生が森のなかにはありました

そこだけいちめんひかりが降りていました

もうすぐ、まあるい芝生だわ、

アーヤはひかりの妖精マヨネイズのことを思いました

森は木々の枝葉にふたされて木漏れ日だけを透かせています

子供たちを見守りながらマヨネイズたちが遊んでいます

迷子の子らを見つけるとマヨネイズたちは子供たちに全身で寄ってゆきます

そして彼らをまあるい芝生に連れてゆきます

ヤンおばさんから聞いた夜のマヨネイズのことを思い出しました

大人はね、夜の森で迷子になるの、

こどもはだめなの?

ヤンおばさんがアーヤを見つめます

アーヤもいつか、きっと会えるわ、

木々のあいだから芝生がのぞいています

アーヤはやわらかなひかりに包まれ始めていました

シュウスケくんはマヨネイズのことを間違って覚えて、いっつも迷いねずみって言ってたなあ、

くすっと微笑むとアーヤはまあるい芝生に足を踏み入れていました




自由詩 (2)アーヤと森とふしぎなひかり Copyright 吉岡ペペロ 2013-05-19 09:55:40
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