初雪
カワグチタケシ
月を追いかけて走る列車の窓に、遠く盆地の灯りが瞬く。小さな灯りのひとつひとつに、ことなる色があり、匂いがあり、温度がある。それを列車の中から感じるとることはできない。
車窓を通りすぎる灯りのひとつひとつを、それでも僕はいとおしく感じる。宝石屑のような無数の点滅のそれぞれに、ことなる愛があり、いさかいがある。
ガラスのすきまから、冷えきった外気が流れ込んでくる。
寒さを選ぶ土地。
その土地に暮らす見知らぬ人々を思いながら僕は、上着のファスナーをのど元まで上げる。
今朝、山荘に初雪が降ったよ。
シートの下からヒーターの弱い熱が伝わってくる。ポケットの中で携帯電話が震える。遠い声が聴こえる。
トンネルを抜ける。月は列車を見おろしている。