いくつもの昨日を置いて
服部 剛

ずいぶんと長い道を歩いてくたびれた靴
かかとを減らした足裏はがれて
ひと足歩くごとに
割れたつま先は口を開く

結んでも結んでもほどけて引きずる靴ひもは
ざらついた地面に身を削り
公衆便所の床にたれた小便さえ吸いこみ
靴ひもは ほどけたままに
ずいぶんと長いこと
ぎこちないリズムで足音を刻んできた

風が 道をぬぐ
今にも消えそうな足跡の遠いつらなりの上
何人かの忘れがたい顔が
別れの場面の表情で浮かんでいる

( 2人3脚になりきれずに
  あっけなくほどけた赤い靴は
  遠く うたかたに 消え ・・・・・ )

一人暮らしのアパートのドアを開くと
台所の薄茶けた壁には
ハート型のまな板が傾いたまま吊るされ
蛇口からステンレスの流しにたれる滴

  ぽとん ・・・ ぽとん ・・・

狭い玄関に
僕の年齢を追い越して年老いた靴を置く
にぶく光る皮の上から
ほどけた靴ひもは たらしたままに
ほころびたつま先を ふたつ
明日の方角に向けて


自由詩 いくつもの昨日を置いて Copyright 服部 剛 2004-12-29 01:59:07
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