いくつもの昨日を置いて
服部 剛
ずいぶんと長い道を歩いてくたびれた靴
踵を減らした足裏は剥がれて
ひと足歩くごとに
割れたつま先は口を開く
結んでも結んでもほどけて引きずる靴ひもは
ざらついた地面に身を削り
公衆便所の床にたれた小便さえ吸いこみ
靴ひもは ほどけたままに
ずいぶんと長いこと
ぎこちないリズムで足音を刻んできた
風が 道を拭い
今にも消えそうな足跡の遠いつらなりの上
何人かの忘れがたい顔が
別れの場面の表情で浮かんでいる
( 2人3脚になりきれずに
あっけなくほどけた赤い靴は
遠く うたかたに 消え ・・・・・ )
一人暮らしのアパートのドアを開くと
台所の薄茶けた壁には
ハート型のまな板が傾いたまま吊るされ
蛇口からステンレスの流しにたれる滴
ぽとん ・・・ ぽとん ・・・
狭い玄関に
僕の年齢を追い越して年老いた靴を置く
鈍く光る皮の上から
ほどけた靴ひもは たらしたままに
ほころびたつま先を ふたつ
明日の方角に向けて