旅と旅行のこと
はるな
連休、休みを取って旅行へ行った。知らない街や知らない海べを歩いてきた。
夫と。
夫は、ほかの男のひとたち(あるいは男のこたち)とあらゆる点において異なっている。どこにいても、いつでも夫はわたしとは区別されている。(抱き合っているときでさえ)。わたしと夫は溶けあわない。だから手をつないで街を歩けるし、知り合ってから五年とすこし、ずっと仲が良い。そして、愛することもできる。
ホテルの35階にあるいけすかないバーで、チョコレートを頼んでくれる。
履きなれていないとっておきの靴で擦れた足のために、新しい靴を買ってくれる。
そして看板まみれの知らない街で入った居酒屋で、思いがけず不味い料理にあたっても大きく笑ってくれる。
そんなふうにして幸福な旅行のあいだ、わたしは二年まえの海の日に海に行ったことを思い出していた。
夫と、もういちどあんなふうに旅をすることができるだろうか。
夫のとなりにいると、わたしはいつもそれだけでいちばん遠く(いちばん近く)へ行ける。だからどこへもいく必要がない。
夫がいる場所と、夫のいない場所があって、その違いだけがわたしに旅を感じさせる。
夫と、いつか離婚するときが来たら、またあんなふうな、(二年前の海の日みたいな)旅ができるかもしれない。今よりはまだ、お互いが「生活」ではなかったころ。
結婚して良かったことのひとつは、結婚したことの不自由さを知ったことだ。
ある程度の不自由さは女性をより大胆にする。そして遠くへ行かせる。
髪をもっと伸ばして、思いがけない旅に出よう。
そして思いがけない旅というのは、いつも、予期せぬときにとつ然はじまる。わたしの場合は、たいていそれは恋でした。
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