純粋言語
N.K.

バベルの塔の話ばかり考えていた
  
「さあ、天まで届く塔のある町を建て、有名になろう。そして、全地に散らされないようにしよう」


いまでもバベルの塔の話を考える
  
こういうわけで、この町の名はバベルと呼ばれた。主がそこで全地の言葉を混乱させ、主がそこから彼らを全地に散らされたからである



「語りえぬものについては人は沈黙しなければならない」




そしてペンテコステ
炎のような舌が分かれ分かれに現れ、
一人一人の上にとどまった日の事は
語りえぬことだとばかり思われた
異言を語るにはあまりに自己が
世俗化してしまったとでも
言えばいいのだろうか

しかしペンテコステ
その日には一同が集まっていて
霊が語らせるままに、
ほかの国々の言葉で話しだした出来事を
人々の記憶に留めるためのものだったと今では分かる気がする
大勢の人々は再び集められ
そしてあっけにとられてしまったが
それを純粋言語と呼ぶ人もいるのだから

そうして今また
突然、激しい風が吹いてくるような音が天から
聞こえ、家中に響くのを
聞いているように思う

そうして今また
物が純粋言語で語りだす
人々の尊厳に直接触れる
語りえぬものではないかと
自分なりに驚き怪しんではいるものの
主語は物=純粋言語で
動詞は語りだす なのだから

目に映るのはバベルの塔を持つ世界の危機に違いない
その世界と既存言語で沈黙する自己の止揚の先に
持たないはずの窓を開け放ったモナドの間で
純粋言語は語りだす

人が散らされたことばかり考えていた
にもかかわらず人は再び集められた

そして今また集められているようにも思う
霊が語らせるままに語ることに思いを馳せる
ことができるように
驚き怪しむままにその場に立ち
にもかかわらずそれに耳を傾けることができるように


自由詩 純粋言語 Copyright N.K. 2013-05-04 21:30:05
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