午前3時のあなた
ただのみきや


目の前のビルに
多くの人間がひしめき合い
忙しく動き回っている
皆同じような恰好をして
皆同じように倍速で囀りながら
男も女も激流のよう
そんな中に一人
着こなしの悪いのが右往左往
あっぷあっぷと翻弄されている
   あなただ

そう
意味は不明
だが感じることはできる
茫漠とした大地の上に唯一今にも
倒れそうにバランスを欠いた建造物
それは あなたの心の有様
みんなの言葉
みんなの行動
みんなの好み
見つけ出したというほどの意識もなく
選びとったと言えるほどの意志もない
氾濫した情報の濁流にぷかぷかと
流され続けるペットボトルのように
中味の無さが透けて見える
そんな価値観に違和感を覚えながらも
それなしに自分を保つことができず
なのについて行けずに疲れ果てて

そんな自分と直面するのは嫌なもの
だが満更悪いことばかりではない
何故ならそこには
そんな自分をよしとはしない
もう一人の自分が在り 今や
そいつが主観の座を占めたのだ

さあ
ここで真打ち登場
今やビルに負けないサイズのあなたは
古き良き時代
場末の酒場から抜け出したような恰好で
ドレスの裾をスルスルっとたくし上げ
(あなたが男でも今は気にしない)
太ももの脚線美を惜しげもなく披露する
(ほら最高のシーンだ)
酔っ払いたちの指笛が
下品で卑猥な掛け声が今は追い風だ
手を使わずに靴を脱いだかと思いきや
瞬殺 ブラジリアンキック!
弧を描いては切り下ろすように
巨大蟻塚を吹っ飛ばす

かくしてバベルの塔はあなたの怒りに触れた
だが まだ終わりじゃない
あなたはドレスの裾をたくし上げたまま
情熱のフラメンコ
振り乱すボンゴレビアンコだ
瓦礫の中でもがくシロアリを
一匹残らず踏んで踏んづけ踏みにじる
満月の夜に身を焦がすジプシー女
収穫期に酒ぶねを踏むパレスチナの娘
でなけりゃシバの上でニタリと笑う
血まみれのカーリーだ

すっかり塵芥となり風がぬぐうと
そこにはエリックカールみたいな
ちっぽけな青虫が一匹
震えるように縮こまっている

そう
意味は不明
だが感じることはできる
圧迫魔王の城に閉じ込められていた
あなたは か弱く幼いままだ
だが未成熟ってことも
満更捨てたものではない
これからどんな翅を広げ
どんな世界を舞い飛ぶことやら
虹と雲の翅
稲妻と流星の翅
以外と地味に亀甲縞とか唐草模様とか
何処までも続く極彩色の花の海
夢の中で見る夢に微笑んだ

こうしてあなたは一つのカタルシスを味わった
だがあと数分もして目を覚ますと
そのほとんどを忘れてしまうだろう
ああ手のひらにメモなんかしても無駄なこと
持ち出すことなんかできやしない
それでいい
夢は夢の中のもの
現実の中で再現しようとするのは危険なことだ
だいたいは猟奇的なものになってしまうから
夢と現は互いを補い合いバランスを保っている
意識と無意識は一つのメビウスの輪だ
地球には同時に昼と夜があり
今この瞬間目覚めている者と夢を見ている者とが
一個の地球の上に存在している
一個の人間も同じようなもの
つまり夢の中でも現実でも
あなたはあなた

あなたが
あなたなのだ


では
おやすみなさい
   よい現を


自由詩 午前3時のあなた Copyright ただのみきや 2013-04-30 23:15:29
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