交差点でSuicaを握りしめたおじさんがトラックに轢かれて微笑んだまま死ぬ話
オノ

これから交差点でSuicaを握りしめたおじさんがトラックに轢かれて
微笑んだまま死ぬ話をしたいと思います。
そのおじさんは人はいいけど頭が悪くて要領もわるくておまけに
不器用だからいつもお金に困っていたけど、あるとき知人に騙されて
大きな借金を背負ってしまって、妻に離婚を申し立てられたことで
愛していた家族とあっさり離ればなれになってしまいました。
おじさんには電車が大好きな娘がいて、妻のことはもうどうでも
よかったのだけど、娘に会えないということを思うとどうしようもない
気持ちになって、自暴自棄になった果てにつまらない犯罪を起こして
捕まってしまいました。
おじさんは根はいい人だったので反省して予定より早く出所して、
それから一念発起して安い給料のところだけどまじめに働き始めました。
おじさんは最初の給料でSuicaを買って、娘のことを思い出すたびに
少しずつチャージしていきました。
生活するのでやっとだったから随分と時間がかかったけど、ある日
チャージした金額でとうとうSuicaが満額になったので、おじさんは
これを電車好きな娘にあげたらどんな顔をするだろうと思って、それ
だけでうれしくなって脇目もふらずに交差点に駆け出してしまいました。
そこへちょうど居眠り運転のトラックがやってきてすごいスピードで
おじさんにぶつかってきました。
そういうわけでおじさんは交差点でSuicaを握りしめて微笑んだまま
死ぬことになったのです。


自由詩 交差点でSuicaを握りしめたおじさんがトラックに轢かれて微笑んだまま死ぬ話 Copyright オノ 2013-04-27 11:25:55
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