バビロン街の夜明け
服部 剛
新宿の路上 ヒッピーをきどる若者達は
ダンボールひいて妙な感触の良さを味わい
くだらないトークを楽しみ
夜明けを待つ 真夜中の歌舞伎町
消えぬネオン街に行き交う人々
ぎたあ弾き語る路上の歌唄い達は
とっくに帰っちまったよ
異国の娼婦は
甘い声で見知らぬ男の肩にふれ
純粋さを封印した汚れた瞳の快楽主義者が
紙っぺら3枚で女を買う
夜の路上の新宿
甘いものは地に転がり
うじゃうじゃまとわりつくありんこの群
燃える欲望は今夜も街を眠らせず
新宿は人間の悪臭と刹那をごちゃまぜにした
108色をこねくりまわしたパレットで
ヒッピーきどりの5人は
ぐちゃぐちゃな色の上
坐り心地のいいダンボールをひいて
あぐらをかいた笑顔の奥で
ごちゃまぜの人間の色を抱きしめてる
いとしいのは
男の腐った瞳かもしれぬ
いとしいのは
体売る女の哀しみかもしれぬ
バビロンの逃れられぬ街に
それぞれの物語を生きる人々の
哀愁は時をわたり
終わりの日まで変わることはないだろう
夜明けのカラスが鳴き始める頃
若者達は腰をあげ
ダンボールをかたずけ
日常の現実に向けて歩き出す
改札での別れぎわ
男は4人と重ねる手のひらを打ち鳴らし
目をあわせてから背を向ける
一人になった男に
甘い声をかけてくる異国の娼婦達
路上に古びとけゆくホームレス達
別れた仲間達
通り過ぎるあご髭にベレー帽の老人
この街に息ずく
密かな声の全てがいとしく思え
エメラルド色のさわれない宝石を
手のひらにつつみ 胸の奥にしまう
男は一人ぬくもりを携え
夜明けの街を放浪してゆく