新天地へと
ロクエヒロアキ

ささくれた丸太でこしらえた筏ひとつで
たったひとつの新天地へと船出する
ここに方位はないから磁石などつかえない
ここに時間はないから時計など意味がない
せめてカモメかウミネコがいたならば、とは
そこは
とろける甘い蜜の絶えずしたたりおちるような楽園ではなく
おそらく有象無象の手が絶えず底から湧いてきてわたしの裾をつかむような
でも目の前の海はきれいにきらめいて
その反面、希望すらも見えないほどに烈しく網膜を焼く
ここに一生うずくまりつづけることと
どれほどの違いがあるだろう、なんて
こしらえられるのはきっと
ただ黄金が破裂するような汽笛の音と航跡
でもたったのそれだけで
わたしは強奪したいのだ
「強奪」
その可能性を信じてみたいのだ
わたしを見つめるあなたのなかでたぷたぷと揺れる液体を固体にしてしまい
掠め取ってこの風呂敷包みのなかにしまいこみ
そうしたらきっと大切にするよ
わたしはわたしとして
ここにも、この場所にも存在しつづけるから、
「お元気で」なんてありきたりな挨拶もいらない
わたしを見ているあなたの瞳を
瞳にこころがあらわれないというのならば指先を、口許を
最初から最後まで見つめつづけたまま
たったひとつの新天地へと船出する


自由詩 新天地へと Copyright ロクエヒロアキ 2013-04-24 03:31:34
notebook Home 戻る  過去 未来