加齢臭の季節
小川 葉

 
 
職場に行くと
体臭が匂うと言われる

みなマスクをしている
それほど匂うらしい

家に帰ると
息子が帰りを迎えてくれる

お父さん、臭いか
と尋ねる

息子は
う〜ん、たまにオヤジくさいけど、
と言って、
うれしそうにはしゃいでる

妻にも聞く
深刻な顔をして

体に鼻をくっつけて
くんくん嗅ぐ

匂いはしないと言う

さてさてと
二人腕を組む

翌日職場に出社する
みなマスクをしている

うちの人は匂わないと言ってます
社長に報告する

それは家族の鼻が麻痺してしまったからだと
社長は引かない

なんと失礼な言動か

いつかこいつが死んだ時
鼻を近づけて
死んだ人の匂いがすると
言ってあげたい

そいつの指示に従った
マスク社員の死んだ匂いも
同じように
かいであげたい

どちらが先になるかは
わからないけれど

もはや匂いがあろうとなかろうと
どうでもいい

人である以上
命の匂いを
私は死ぬまで発しつづけたい
 
 


自由詩 加齢臭の季節 Copyright 小川 葉 2013-04-23 23:13:16
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