Echo Wreck
木立 悟





海岸には 誰もいません
本が落ちていました
文字も絵も無く
ただ幾重にも
波のかたちに濡れていました


銀河は
人々のなかに散ってしまいました
姉は最初からいません
だからもう 
返事を書かなくてもいいのです
(一度きりのあやまち)


前髪を切れば
世界は滅ぶのだから
曲がり角のむこうを
畏れなくてもいいのです


守れなかった
何を と聞かれても
わかりません
ただ みんな
離れていったのです


数秒前のことが
昨日のことのように刺さります
帰り路ばかりが
境いめを埋めながら
延びてゆきます


色は何処へ行ったのでしょうか
何処へも行ってはいません
すぐ近くで
月を塗りつづけています


難破船が ひとつひとつ
鏡になっていきます
それを見ようと
真昼も午後も立ち止まります


逃れられず
逃れていきます
夜の目を洗う
夜のように


どこまで話したのか忘れ
ふと空を見ると
空はもう空ではなく
話すことのできない何かでした


海を巡り
巡るたびに誤まり
かたちは皆 砂の上に置かれ
いつのまにか消えてゆくのでした


沈むものは
沈むものを呼びつづけ
波は今日も
星と鏡を呑むのでした











































自由詩 Echo Wreck Copyright 木立 悟 2013-04-05 08:34:51
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