ブリキの森と紙の古城とウルサい湖畔の魔法
村上 和

物語を
知っているだろうか



おしゃべりなオオカミは言う
優しいでも強いでもなく
ボクはいいオオカミになりたい
その口元には
羊の肉片がついている

夕方に起きだして
いつものけもの道を行く
自分でつくった道だ
陽が沈むまでに湖畔にたどり着ければ
間に合うだろう

歩く姿は
地面の匂いをかいでいるようにも
うなだれているようにも見える



おしゃべりなブリキは言う
おとなしい我らの羊を殺すとは
なんて酷いことをするんだ
怒りからの震えなのか
絶えずカチャカチャと音がする

2メートルほどの高さの
立派なお城から
兵隊が足音をそろえて出てくる
数はそんなに多くないが
何かに感化されているのか
士気は高い

横に広がる隊列を組み
ざっざっとオオカミがでるという森へ入っていく



おしゃべりな魔法使いは言う
魔法とは皆さんそれぞれの
心の中にあるのです
ありきたりな言葉だ
聞く者たちの中にあくびを噛み殺す姿が散見される

演説が終わった後
満足もしていないのに
参列者ににこやかにお礼を言い
また参加してほしいと案内をすることになる

伝えたいことは文字通りなのだが
使い古されている
言葉を変えなくてはいけない

その魔法使いの住処は
ほとんどの場合と同じく
森の中にある



物語を知っているだろうか

弓を引く音
獣の匂い
誰もいない城
呪文
散乱する鎧の破片
血の跡と牙
ひるがえる杖と厚手の衣

満月の下
影絵劇のようなシルエット
遠くから
紙を裂いて吠えるような
声が聞こえる


自由詩 ブリキの森と紙の古城とウルサい湖畔の魔法 Copyright 村上 和 2013-04-02 23:20:55
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