戯曲(習作つづき7)
星☆風馬

奈津登校中
爆発音、ノイズ、戦争の音など入り乱れ鳴っている
小さな塚、中央に石が置いてある。墓のようである

奈津 「むげん まぼろし 平泳ぎ
    今日は朝焼け 胸がくるしい
    靴をとばして 雨濡れて
    裸足になって あなたにキッス
    カミナリ様の空の下 感電しても大丈夫
    あなたといるなら大丈夫
    いろんな人がやってきて
    いつのまにか去っていく
    西に死にそうな病人がいたら
    行ってコワガラナクテイイと言え
    ケンジ先生 うしとらの天空人よ
    世界の終わりを生きる
    わたしたちはハジマリビトよ

    むげん まぼろし 平泳ぎ
    なんにもいらない空の下
    疲れたら 少し休んでM字開脚
    そして見上げた空の下
    次はW字開脚すればいい
    休んだら お尻を持ち上げB字開脚
    そしてふたたび平泳ぎ
    平泳ぎして ゆっくりゆっくり 逆Y字」

父登場

父  「おーい、奈津ー!奈津ったらばー、ちょっと待てー、お前パンティーはき忘れてるぞー(退場)」
奈津 「あ、あれはお父さん。でも本当のお父さん?」

父登場

父  「奈津、待ってくれ。ああ、やっと追いついた」
奈津 「お父さん、どうしたの?」
父  「奈津、おまえ、股間がなにか涼しくないか?何かスースーするだろ?スカートの下がスースーするだろ?」
奈津 「とってもスースーするわ。だってノーパンだから!(奈津、スカートをめくる)」
父  「そうだろ、やっぱりスースーするだろ」
奈津 「そうよ、スースーするわ、だってノーパンだから!(奈津、回転してスカートをめくる)」
父  「いや、それは、かなりマズイと思うぞ。これから学校に行くんだからノーパンはマズイだろ?パンティーぐらいはかないといけないだろ?」
奈津 「だって、わたしのパンティー、探してもどこにもなかったんだから仕方ないでしょ」
父  「それが実はあったんだよ。朝起きたらおれがかぶってたんだ。これ、奈津のパンティーだろ?ちがうか?」
奈津 「それ、わたしのパンティー。お父さん、それ、わたしのパンティーよ」
父  「奈津、学校にはちゃんとパンティーはいて行くんだぞ(父、奈津にパンティーを渡そうとする)」
奈津 「いいわ、お父さん、そのパンティー、お父さんにあげる」
父  「え?」
奈津 「わたしはもうパンティーはかないの。お父さんにあげる」
父  「え?、、、いいのか?」
奈津 「いいの、あげる!」
父  「うへ、うへへへへへ(父、再びパンティーをかぶる)」

龍児登場

龍児 「奈津ー、好きだー、バカヤロー、お前が好きだー、くそったれー、こんなに好きなのに、ちくしょー、バカヤロー、お前はなんで、ああー、おれの妹なんだよー(退場)」
奈津 「あ、あれはお兄ちゃん、でも本当のお兄ちゃん?」

龍児登場

龍児 「ああ、奈津、そこにいたのか。今日はこれぐらいで勘弁してくれ(龍児、爆竹入り一斗缶の中へ火のついたマッチを投げ入れる、爆竹鳴る)奈津、おれの気持ちはこんなもんじゃない。おれをこんなチャチな男だと思わないでくれ」
奈津 「お兄ちゃん、そんなこと思ってないよ」
龍児 「次はもっとどでかいやつで、心臓飛び出るぐらいのどでかいやつで、、、」
奈津 「わたしの心臓を打ち抜いて!」
龍児 「待っててくれよ、奈津」
奈津 「いつまでも待ってるわ、お兄ちゃん」
龍児 「(龍児、客席に向かって数歩ふみだし雄叫び)奈津ー、おれはおまえのことが好きだー!」
奈津 「(奈津、同じく叫ぶ)お兄ちゃーん、わたしもお兄ちゃんのことが好きー!」
龍児 「奈津、おれはおまえのことが好きだ。おまえはおれの妹なんかじゃない。おまえは本当は、本当は、おれの妹なんかじゃなくて、母さんの産んだ子なんかじゃなくて、紗倉真奈という、もう死んでいない、紗倉真奈という人の落とし子なんだ」
奈津 「知ってるわ、全部知ってるの、そんなこと言わなくていい。お兄ちゃんはお兄ちゃん、わたしはお兄ちゃんのことが好き(ノイズ、爆撃音しだいに大きくなる)だから踊りましょう。手をつないで、ステップ、ステップ(2人、手をつなぎ踊る)ワン・ステップ・クローサ、一歩ずつ、ワン・ステップ・クローサ、近づいていく、ワンステップクローサ・ダンシング、踊りましょう」
龍児 「踊ろう、ワン・ステップ、一歩ずつ、クローサ、近づいて、、、」

爆撃音がどんどん大きくなるにつれて2人の声も大きくなるが
そのうち音にのみ込まれ声は聞こえなくなる、しだいに暗く
ノイズがとぎれとぎれに鳴っている

奈津 「どでかいの、鳴ってるね、お兄ちゃん」
龍児 「いつも、鳴ってるよな」
奈津 「世界中でドッカンドッカン、やってるわね。沈黙の悲鳴も聞こえる。いつまでもドッカンドッカンやって、最後は地球がどっかーんって、消えるね」
龍児 「消えるね。太陽の軌道も変わって、銀河系大混乱になるんだな、、、ならないか、太陽大きいし」
奈津 「お兄ちゃん、わたしのこと好き?」
龍児 「好きだ」
奈津 「いつまでも好き?」
龍児 「好きだ!」

しだいに明るく、ノイズも止む
母登場

母  「奈津、よくお聞きなさい。大事な話だから、そこにおかけなさい」
奈津 「はい、お母さん(奈津、龍児、寄り添ったまま腰かける)」
母  「あなたは、、、」
奈津 「お母さん、もうわかっているわ、だからそれ以上言わないで。わたしは全部知ってるの(奈津、立ち上がり詩吟)

    古に 在りけむ人の しつはたの 帯解きかえて 伏し屋立て
    妻問いしけむ 葛飾の 真間の手児名が 奥つ城(き)を
    こことは聞けど 真木の葉や 茂りたるらむ 松の根や
    遠く久しき 言のみも 名のみもわれは 忘らゆまじし

お母さん、あなたは本当のお母さん?」
母  「いいえ、ちがうわ」

せむし登場、全裸

せむし「おまえの母は娼婦だったのだ。毎日やってくる男のために服を脱ぎ、体を売っておまえを産んだ。しかし決して心だけは売らなかった美しい娼婦。どれだけの男を相手にしたか、おまえがどうやって生まれたか、誰にもわからない。「結婚しようと思っている」「子を産んで家を作ろう」言い寄って来る男たちは皆金目当て、口は出まかせ。用済みになれば捨てられる娼婦の運命だ。おまえがどうやって生まれたか、誰にもわからない。おまえが誰の子か、紗倉真奈にもわからない。おまえは震災孤児2世だ」
奈津以外の4人「おまえは震災孤児2世だ」  
奈津 「いいえ、わたしのお父さんはお父さん、あなたでしょ?」
父  「いや、おれはちがう」
奈津 「だって、お父さんじゃない」
父  「いいや、おれは真奈とは寝ていない」
奈津 「たとえ血がつながってなくても、お父さんでしょ?」
父  「いいや、おまえはおれの子じゃない」
奈津 「お兄ちゃん、お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんでしょ?」
龍児 「いいや、おれはおまえの兄じゃない」
奈津 「だって、お兄ちゃんじゃない」
龍児 「いいや、ちがう」
奈津 「お兄ちゃんはいつまでもわたしのお兄ちゃんよ」
龍児 「おまえは紗倉真奈の子だ」
奈津 「お母さん、、、」
母  「わたしは紗倉真奈ではない。わたしは高倉聖子。わたしはおまえの母親ではない。わたしはおまえを育てたが、おまえにお母さんと呼ばれる覚えはない。おまえは死んだ娼婦の娘、奈津だ。名前もわからない父親と娼婦の子、震災孤児より産まれた、震災孤児2世だ」
4人 「おまえは震災孤児2世だ!」
奈津 「そんな、、、」

奈津、詩朗読
他の4人、手を合わせ墓に祈る

奈津 「風の偏奇   
    
    風が偏奇して過ぎたあとでは
    クレオソートを塗ったばかりの電柱や
    逞しくも起伏する暗黒山稜や
    (虚空は古めかしい月光にみち)
    研ぎ澄まされた天河石天盤の半月
    すべてこんなに錯綜した雲や空の景観が
    すきとおって巨大な過去になる
    五日の月はさらに小さく副生し
    意識のように移って行くちぎれた蛋白彩の雲
    月の尖端をかすめて過ぎれば
    そのまん中の厚いところは黒いのです
    (風と嘆息との中にあらゆる世界の因子がある)
    きららかにきらびやかにみだれて飛ぶ断雲と
    星雲のようにうごかない天盤附属の氷片の雲
    (それはつめたい虹をあげ)
    いま桂酸の雲の大部が行き過ぎようとするために
    みちはなんべんもくらくなり
    (月あかりがこんなにみちにふると
     まえにはよく硫黄のにおいがのぼったのだが
     いまはその小さな硫黄の粒も
     風や酸素に溶かされてしまった)
    じつに空は底のしれない洗いがけの虚空で
    月は水銀を塗られたでこぼこの噴火口からできている
    (山もはやしもきょうはひじょうに峻厳だ)
    どんどん雲は月のおもてを研いで飛んでゆく
    ひるまのはげしくすさまじい雨が
    微塵からなにからすっかりとってしまったのだ
    月の湾曲の内側から
    白いあやしい気体が噴かれ
    そのために却って一きれの雲がとかされて
    (杉の列はみんな黒真珠の保護色)
    そらそら B氏のやったあの虹の交錯やふるえるひと
    りんごの未熟なハロウとが
    あやしく天を覆いだす
    杉の列には山烏がいっぱいに潜み
    ペガサスのあたりに立っていた
    いま雲は一せいに散兵をしき
    極めて堅実にすすんで行く
    おお私のうしろの松倉山には
    用意された一万の桂化流紋凝灰岩の弾塊があり
    川尻断層のときから息を殺してしまっていて
    私が腕時計を光らし過ぎれば落ちてくる
    空気の透明度は水よりも強く
    松倉山から生えた木は
    敬虔に天に祈っている
    辛うじて赤いすすきの穂がゆらぎ
    (どうしてどうして松倉山の木は
     ひどくひどく風にあらびているのだ
     あのごとごというのがみんなそれだ)
    呼吸のように月光はまた明るくなり
    雲の遷色とダムを超える水の音
    わたしの帽子の静寂と風の塊
    いまくらくなり電車の単線ばかりまっすぐにのび
     レールとみちの粘土の可塑性(かそせい)
    月はこの変厄(へんやく)のあいだ不思議な黄いろになっている」

父  「あー(父伸びる)やっとこれで今日の真奈の命日供養も終わったな」
母  「そうですね」
父  「奈津、御苦労さん(父、奈津の肩をたたく)あー、疲れたなー。しかし、紗倉真奈のあの学園祭での脱ぎっぷりはすごかったよな」
せむし「全校男子の憧れミス河内東の紗倉真奈が全裸になったわけですからね」
母  「あの裸、反則よ。校長先生、顔が歪んでたわね。でもどうして薫さん、今日は全裸なの?」
せむし「え?わたしですかい?それは感謝のためですよ。彼女に救われた男がどれだけいたか。わたしのインポもこの通り、治ったわけだし」
母  「あら、いやん、立ってる(or、しなびてる、、、)」
せむし「へへへ」
父  「あのバカ校長、おれに大目玉食らわせるまえに、紗倉のおやじに大目玉食らってたな」
母  「あなたも退学寸前でしょ?マナティーがお父さんに話しつけなかったら」
父  「いや、あいつにはおれも感謝している(父、服を脱ぎ始める)真奈がおやじにとりなさなかったらおれの首もとんでたな」
母  「だからってわざわざ服脱がなくてもいいです」
父  「いや、いいんだ、おれは感謝しているんだ(父、全裸で手を合わせ)紗倉真奈、ありがとう!しかしなんであのとき紗倉真奈は脱ぐって言ったんだ?」
母  「それは、、、与志さんが好きだったからでしょう」
父  「え?おれを?、、そんなわけないだろ、馬鹿」
母  「本当です。でなきゃ、どうして紗倉ビル社長、若林区で固定資産税の5%を納める高額納税者番付一番の大富豪紗倉義弘の娘が全裸になるのよ。全部あなたのためよ」
父  「うう、、それは知らなかった(父、墓前にうずくまり泣く)真奈、そうだったのか、おれは全然知らなかった、、」
母  「どんかんすぎるのね、あなた、いつも。紗倉真奈とわたし、どっちが好き?」
父  「そんな、怖ろしい質問、しないでくれ」
母  「いいのよ、どっちを答えても」
父  「、、、おれは、おれは、奈津ー、おまえが好きだー!」
母  「あ、逃げた」 
せむし「ただだだっ広いだけの土地を持つ土百姓、紗倉義弘の人生も、そこに国道が走ったときから波乱万丈、難破船、狂い始めたのだ。バブル経済の追い風で貸しビルを国道沿いにどんどん建てたのはいいが、中身は全部借金だ。「5%の男」と言えば聞こえはいいが単なる百姓が地元の大紳士に変身しても本当は大変だったと思うよ。100億借りて利息だけで毎月いくら返してたんだ?社員の給料も払わなきゃいけないし、年4回の家族旅行も、あのどでかい家も、全部見栄だろ?見栄張らないとケチだなんだとうるさいからな地の奴らも。金にたかるウジ虫みたいなもんだ。それがあの震災でビルごと全部流されて、残る借金は雪だるま。社長の首も回らねえ。生命保険かけて死んでも、そんな金じゃ借りた金の足元にも及ばないんだからな。おそろしいもんだ。ようやく借金の整理がついたころ、紗倉義弘はドラム缶で海の中。残る母もガンで死に、真奈だけが残された。いっとき親戚連中のところを転々としてたらしいが、いきなりの転落だったし、たらい回しにされたんだろう」
父  「で、おまえ、毎晩通ってたのか?」
せむし「え?おれですか?リハビリですよ。インポですから」
父  「毎晩舐めてもらったのか?」
せむし「そりゃあ、そうですよ。相手も仕事ですから」
父  「奈津はおまえの子なんだろ?」
せむし「え?」
父  「おまえしかいないだろ?」
せむし「ちがいます」
父  「本当か?」
せむし「ええ」
父  「おまえ、やったんだろ?」
せむし「勘弁してくださいよ」

照明暗く、波の音
正面にプロジェクターより紗倉真奈の少しあらい映像が流れる
映像とぎれ喘ぎ声

―暗―


散文(批評随筆小説等) 戯曲(習作つづき7) Copyright 星☆風馬 2013-03-31 19:31:48
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