色盲
一尾
便箋を整理していたら人から貰った手紙が幾らか出てきて見覚えのある色彩を携えた紙の様子に何となく懐かしくなっていたのだけども不意に忘れてたポストカードなんかも目端に映ってうっかり息がつまった肺胞がいくらかしんだ
ポストカードの表には女流写真家が撮った水色の滲んだような風景が貼り付けられていてぼんやりと過去のわたしが追いやったものの残り滓を示していた
彼女からもらった手紙の端々に零れているこころの透徹さを結局のところ私は読まないで燃やしたいや読んだし意味も理解したし求められていることすら生まれた時より誰かが細胞に丁寧にメモをしてくれていたのではないかというほど明確にわかったのであるが
わかっているという状況に自分の足が浸かっているにも関わらずそれについて行動を起こす気がしないばかりかほんの指一本動かすのも厭だという気持ちがあってその認知を無表情で咀嚼するのにそのときは忙しかった
感情とか感慨とか気持ちとかいわゆるこころというのは浪費され擦り減っていくものなのだということを当時の私は生まれて初めて知ってただそれを悲しいと思うのも煩わしく「もうあくにんとしてじんせいをまっとうしたい」とそういうことばかり考えていた
私はあなたのせいでこんな風になってしまったのだからあなたも私の為に破滅すべきだわ
というアイラブユーの信号が一体何色で光っていたのか色盲のふりをしているうちに本当にわすれてしまったけれど多分再び私に向かってそれが点滅することがあっても私はまた色の分からないふりをしてあいまいに目を細めるだけなのだろうという気がしている